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〜宝〜
「ねぇ、今日つづちゃん変じゃない?」
凪野は普段から色んな箇所でインターフェースを担ってるだけあって変化に気付くスピードが犬とか猫並みに早いと思う。
だけど、今回の如月の変化には流石に俺も気付いていた。
「あぁ…何かあったかな…」
スタジオBlueで放課後集まった俺と如月と舟木と凪野は、唯一の社会人である鮫島さんの仕事が終わるのを待っていた。
たまにジャカジャカと騒音じみた音を合わせて笑い合う。
如月は端に置いてある丸椅子に座って頭を抱えるように蹲っていた。
だいたい無表情の舟木でさえ、心配そうにしているのが分かる。
俺はギターをおろして如月の前にしゃがんだ。
「なぁ…」
チラッとこっちをみる如月。
「…腹痛いのか?」
まぁ違うだろうけど…
分かっていながら、とりあえず遠い所から攻めてみる。
如月はフルフルと頭を左右に振った。
「んじゃ、腹減ったか?」
またフルフルと頭を振る。
如月は床に置いていた大学ノートを手にして、俺に渡してきた。
「歌詞ノート?新しいの書けたの?」
如月がコクンと縦に頷いた。
ゆっくりノートを開く。
そこには、ボールペンで書かれた歌詞。周りに猫とか、ロケットの落書き。あんまり上手くない。
まだ俺が見た事のない歌詞が書かれていた。
♪
暗闇に泣いた
閉じ込めて溢れて涙 緋色
灯りのないまま
滲む夢の爪痕 群像
薄れた明けの光に天使と
闇に舞ったリアリズム投げて
少し酔ってる
少し迷って
君の匂いが揺れながら消えていく
伸ばした指先の
君は夢幾つも夢
抱えたまま
さよならと言わないで
♪
その後も何か書かれていたけど、凄い筆圧で文字を消すようにボールペンで上からかき消されていた。
目を細めたところで見えそうもない。
もう一度、書かれている歌詞を眺めた。
「つづちゃん恋でもした?」
さよならと言わないで…の最後の一行だけで、俺は少し揶揄うように上目遣いで如月を見つめた。
すると、如月はハッとした顔で俺を見つめ、フイと視線を逸らしてまた俯いた。
「…嘘…まじ?」
俺はポカンと呟いていた。
如月の反応からして当たらずとも遠からず…ではないのか?
そして感じた事のない感情が騒いだ。
白い紙切れを汚い泥水に浸して、吸い上がってきたモノに汚染されていく感覚。
綺麗だとか、無だとかは到底言えないような
そんな
多分…嫌悪。
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