142人が本棚に入れています
本棚に追加
49
49
〜宝〜
静寂とは無縁の筈のスタジオ内で、シンと耳鳴りがするような静けさが襲った。
慌てたのは凪野だ。
凪野は周りを取り持つのが上手い。波風立てないように努める事にかけては多分右に出るものは居ないほどだ。
何となく俺と如月が気まずいような空気を出したのかもしれない。
「つづちゃんっ!歌詞見せてっ!彩っ!一緒に見ようよ!」
凪野は舟木を呼びよせ、俺が持っていた大学ノートを奪った。
「うわぁっ!カッコイイね!つづちゃん、良いよ!俺はこの、君は夢幾つも夢のところ好きだなぁ!な!彩は?どこが好き?」
舟木はジッと大学ノートを眺めて、文字を指でなぞるように言った。
「俺も瞬と同じところが良いな。サビんとこだよね…最後が切なくて盛り上がるね。さよならと言わないでって。」
舟木の言葉に、もう一度歌詞に目をやる。
「ここ…何で消しちゃったんだよ」
俯いたままの如月に問いかけると、ゆっくり上げた顔が目の前に立った俺を、まるで捨てられた子犬みたいな目で見つめて、今にも泣きそうに呟いた。
「ダメだと…思ったんだよ」
それは、歌詞の事なのか…
おまえが抱いた誰かへの…恋心のことなのか…
そこへ鮫島さんが入ってきた。
「お疲れ〜!いやぁ、疲れたぁ〜って言ってられねぇかぁ〜、アハハッ!」
ドスンとボストンバックに詰まった機材を床に置き、中からドラムセットを出して組み立てながら笑う。
「実はさ!Cosmosの連中から話があるって呼ばれて。」
「何々?」
凪野が一番に好奇心をキラキラさせて近づいていく。
「聞きたいか?」
鮫島さんは、もったいぶるように凪野の顔を見つめた。
「聞きたいに決まってんじゃん!何だよ〜」
ピョンピョン跳ねる凪野を見て、鮫島さんは満足したのか、椅子に座り、シンバルをセッティングしながら話し始めた。
「ワンマンの話が来てる」
俺はチューニングしていた手を
止めた。
最初のコメントを投稿しよう!