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〜宝〜
クラスメイトの如月綴を家に呼んだ。
普段は関わりがないグループに属している如月とは会話らしき会話をした事がない。
酒、タバコ、喧嘩みたいな定番の不良グループに属していて、キャラからして俺とは無関係に近いからだ。
だけど…いつも目の端に映り込んで来る。
どうしたって、映り込んでくるのだ。
理由は明らかだった。
本人は全くの無自覚っぽいのだが、アイツはとにかく顔が良い。そんじょそこらのイケメンではない。明らかに別格なんだ。日本人でここまで整った顔立ちを、少なくとも俺はコイツ以外では知らない。
シャープな顎に、綺麗な歯並び。鼻が高くて、目なんてほぼ白人のように彫りが深い。
おまけに身長もそこそこ。まだきっと伸びるだろう。
それから…
「なぁ…」
「ん?」
如月に呼びかけると、顔面国宝が無自覚に俺を覗きこんだ。
「何か歌える曲ない?」
「はぁ?歌?ないない!」
手をヒラヒラさせて、片方だけ口角が上がる。
「じゃあさ、チューリップ歌ってよ」
「ワハハ、チューリップって、咲いたぁ〜咲いたぁ〜チューリップの〜ってヤツ?」
「…」
「何だよ」
「やっぱ如月、人より声高いよな」
「おまえもだろ」
「そうかな?俺、低いよ」
「いやいや!」
なんて事はないチューリップの一節。
ただ、実感する。
如月は
声が良い
予感が騒いで、俺は如月の腕を掴んでいた。
「なぁ…俺と組まない?」
如月がビックリした顔をする。
そりゃそうか。もっともだ。まだ何も話しちゃいないからな。
「組む?何?チーム?」
俺は掴んでいた腕をパッと離した。
「いやぁ…そういうんじゃないって。バンド。」
ちょっと呆れた顔で吐き捨てるように告げると、ポカンとした如月があははと声をあげて笑った。
「ハハッ!聞いてた?俺、楽譜読めないし楽器なんか弾けないって」
何を勘違いしたか、如月は楽器隊でバンド参加だと思い、話を断ってきた。
俺はソファーから立ち上がり、鞄の中をゴソゴソと弄る。
「おい…井波?」
背中にかけられる声を無視して、やっと鞄からタバコを取り出した。
クルっと如月に向き直り、手にしていたタバコを放り投げる。
パシッと両手でソレをキャッチした如月は俺を見上げた。
「それ、やるよ。今日の目的だろ?」
「えっ…ぁ…あぁ…まぁ」
「受け取ったからには考えてくんない?」
「バンド?だから言ってるだろ、俺は」
「歌うんだよ」
如月は弾かれたように手にしたタバコから顔を上げた。
「う、歌?俺が?」
心底驚いた表情だ。
これは面白いじゃないか。
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