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51 〜宝〜 スタジオ練習が終わって、いつものようにスタジオ前の赤いベンチで休憩をした後にメンバーとは解散した。 凪野と舟木は同級生の家に行くと二人で行ってしまい、鮫島さんは明日朝早いから帰ると、片付けが終わるとすぐ車で帰ってしまった。 そうして、俺と如月は電車に揺られていた。 何となく会話はない。 俺はスタジオで見た歌詞を思い出していた。ワンマンの話で紛れてはいたが、あの謎に抱いた嫌悪感がやっぱり拭えない。 チラッと隣を見ると、如月はゆっくり俺の方を向き、顔を傾けた。 「ん?どうした?」 無駄に顔が良い。更にはゆっくり喋る話し方に、俺は安らぎみたいなもんを感じたのかも知れない。 「…あの新しい歌詞のタイトルは?」 「え?…あぁ…あれ?…」 如月は少し戸惑って、苦笑いしながら髪をかき上げた。 俺から目を逸らし、シートに背中を預けて両手を組み、ちょっと顎を上げて目を閉じた。 それから、深呼吸するみたいに一息ついて呟いた。 「falling down」 「falling…down?」 握り合った手を額に当てて、前傾姿勢になると、目を閉じたまま如月は言葉を紡いだ。 「落ちて行きそうっていうか…落ちてないと良いんだけど…まぁ、その…俺にも良く分かんなくてさ」 そう言った如月に、俺はどうしてだか苛ついた。 「恋なんかしてる場合じゃないぜ」 思ったより冷たく、突き放すような響きで自分の声がガラガラの車両に落ちた。 如月が何も言わないから、チラッと彼を見ると、今にも泣き出しそうな顔で、ボンヤリ向かいの窓ガラスを眺めていた。 そして呟いた。 「どうするつもりもないよ」 それを聞いて俺は俯き、そこからは一言も喋らなかった。 喋れなかった。
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