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6 〜綴〜 井波は俺にたった一箱のタバコを手渡して何かよく分からない事を告げた。 俺の目的は大人しい雰囲気の井波からワンカートンのタバコをせしめるといった目的があったはずだ。 最初から薄っすら気付いてはいたけど、どうも井波と居ると調子が狂う。 ペースは完全に井波のリズムだし、俺はただそれに流されるように相槌を打つしかない。 「そ!…プロ目指そうぜ」 プロ? 誰がだ? 俺? え? 正気かよ  「俺と…井波が?」 井波は首を左右に振った。 「うち溜まり場になってるの知ってる?」 「いや、知らない。」 「一個下に舟木(フナキ)と凪野(ナギノ)ってちょっと楽器出来る奴がいるんだよ。そいつらと、あと鮫島(サメジマ)さんて社会人の人がドラムやってくれる…予定」 井波は斜め上を見上げながらポリポリ頰を掻いた。 「よ、予定って…そういう話になってるわけじゃないのかよ」 「ハハ、なってない。なれば良いなぁ〜って思ってる」 井波は悪びれる事なく笑った。 「な、何で俺が歌なわけ?」 俺は顎を引きながら井波に質問を続ける。 「何でって……顔が良い」 俺は開いた口が閉じれないまま井波を見つめた。それから、ダランと脱力して、肩を竦めて見せた。 「あのさぁ…無計画な上に俺の事は顔で選んだとか…井波の話はどこまで本気なんだよ」 呆れたという風にして手の中のタバコの封を切った。 タバコを一本取り出して口に咥えると井波がまた隣に座りながらライターの火を差し出した。 「サンキュー」 グッと吸い込んだ煙が口から細く舞い上がる。 ソファーの前に置かれたペール缶がどうやらテーブル代わりらしく、灰皿が置かれている。 溜まり場になっているというだけあって、吸い殻の種類はバラバラだった。 「全部本気なんだけど…」 「ヤバい奴じゃん」 「どのへんが?」 「大体全部」 井波は自分のタバコを取り出し口に咥える。 自らライターで火をつけると、顎を反らしながら、煙を吐き出した。 紫煙が宙でクルクル渦を巻きながら散って消えていく。 「如月をボーカルに選んだ理由はまだあるよ」 「ほ〜…聞かせてよ」 「声が良い。高さもあるし、曲作りしやすい!」 「…俺が音痴だったらどうするの?」 「チューリップは歌えたじゃん」 「…どんな理屈だよ」 「あんま難しく考えなさんなって。タバコ吸ったんだから強制参加だよ」 「…へっ?!…ちょっ!そんなっ!金払うっ!俺はやらないよっ!」 慌ててタバコを灰皿に捩じ込んだ。 その瞬間だ。 バタバタドタドタと細い階段を駆け上がってくる足音がする。 俺は音に驚いて肩を竦め身体を縮めた。 バァーンと扉が開き、掛かっていた木のプレートがカランと音を立てる。 「うっわ!本物だ!」 うちの学校の制服を着た男が俺を指差した。 指差した奴の後ろからもう一人現れて、そいつの手をパンと叩いた。 「指さすなよ、失礼だろ」 「あぁ、そっかそっか!ごめーん」 指差した男は頭を掻きながら苦笑いする。 後ろの奴は無表情に俺に向けて頭を下げた。 騒がしいにもほどがある。 にしても、"本物だ"って何だ?
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