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〜綴〜
女を抱いた。
柔らかな胸が揺れて、長く赤い爪が俺の背中に食い込んで、甘い喘ぎの中、俺はただの動物のように腰を振った。
多分、これは恋じゃないし、愛でもない。
リアラさんは、そんな事は分かっているとでもいうくらいサッパリした態度で言った。
「つづちゃん、好きな子いるでしょ」
「は?何で?」
タバコを灰皿に打ちながら驚いた顔をすると、クスッと笑うリアラさん。
「年上舐めんじゃないわよ。でも、セフレならいいでしょ?他の女はダメよ。我慢出来なくなったら私としよ」
「…セフレ」
「そうよ、それとも私とちゃんと付き合う?」
「ぁ…えっと」
「うそよ!リアルに困らないでよ!私から誘ったんだし、つづちゃんが責任感じる必要ないんだしさっ!」
リアラさんはそう言って、俺の長い髪をかき上げた。
「本当、綺麗な顔…大好き…ため息が溢れちゃう」
うっとりと俺の頰を撫でてくる彼女。俺はそんなリアラさんに苦笑いを溢した。
その日は、必要以上に鮮明な悪夢を見た。
父さんは入院中で、家の中で怯える必要もなく、とても静かな空間だった筈なのに。
女の身体を貪る自分の醜さに…いや、自分の心への裏切りのせいだったんだろうか。
飛び起きては、汗だくの額に驚いた。
ギュッと目を閉じたら、井波が珍しくヒャヒャッと笑った顔が浮かんで、涙が頰を伝った。
その意味を、俺はもう知っていて、ただ…苦しい。
ただ、悲しい。
逃げたい。
こんな感情は、アイツに相応しくない。
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