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〜宝〜
目をつけていた…といえば聞こえは良いが、多分そういう話でもない。
ただ、毎日視界の隅に入ってくる。それだけは確かだった。
タバコを欲しがって俺に集って来たりしなきゃ、俺は如月に声はかけられなかったかも知れない。
校内でも中々ダメな集団に属していた如月だ。ナンパに失敗したら、俺だって何をされるか分からないという思いはあった。
ただ、そんな連中の中に居ても、如月はどうしてだか品があるように見えた。顔が綺麗なせいかも知れないけど、やっぱりその風貌は別格で、それは校内とかいう小さな世界の話じゃなかった。
彼をボーカルにして、デビューする!
そんな輪郭もない夢が存在していた訳じゃない。ただ、叶うのであれば…。
今日は正直なところ、小手調べといった感じでいたんだ。
だけど、如月は思いの外簡単にボーカルを引き受けてくれた。
まずまずのスタートだ。
「で、バンドって何すんの?楽器弾いて、歌って…遊ぶって感じ?」
如月の問いかけに俺を含め凪野も舟木も固まる。
「あぁ〜…まぁ…曲決めて、練習して、ライブして…それが遊ぶって事になんのかは分かんないけど、とにかくプロ!音楽で飯食ってく!みたいなヤツ」
俺が何となく説明すると、如月は首を傾げた。
「練習…ライブ?」
「女にキャーキャー言われちゃうよ!」
凪野がニッコリ笑いながら誘い文句を付け足す。
「女かぁ…いいな!」
如月が女を連れてるのは見た事がない。うちは男子校だからだ。
悪い事は一通りやってるだろう如月だけど、この反応じゃ、女はまだだな。
綺麗な顔を持て余してる。
きっとライブをすれば、如月には星の数程の女が寄ってくるに違いない。
いつも視界の隅に入り込んでくる如月はいなくなる。
同じステージで
並んで
歩いていくからだ。
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