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9 〜綴〜 井波の部屋には、それから何人もの上級生や、下級生、隣のクラスのヤツなんかが出入りした。 皆んなCDを借りに来たり、ただ、部屋に流れる音楽を聴いて、タバコを一本吸ったら帰ってしまったりと、まさに駅近なのをいい事に、待合所のようにして人が出入りしていた。 井波に社交性があるようにはとても見えない。 でも人が集まる彼に、俺はほんの少しの嫉妬と憧れみたいな気持ちを抱いた。 俺には無いものだ。 両親の素晴らしい教育のおかげで、ギスギスと荒んだ人間関係にはうんざりしていたせいで、人というものが極端に好きじゃない。 最低限の関わり。最低限の深さで。 人生は汚れて過ぎていく。 ずっとそう思ってたんだ。 俺の人生はブランコの様に、前にも後ろにも進めない。 ずっと同じ場所で立ち止まってるのと変わらない。 そう思って…。 「おいっ…おいっ如月っ?」 「えっ?!あ、あぁ…何?」 「意識飛び過ぎじゃない?」 にゅっと眼前に現れた井波の白い肌にビックリして後ずさった。 気づいたら凪野も舟木も居なくなっていた。 「アイツらは?」 「何言ってんの…もう帰ったよ。如月は?帰る?もう少ししたらさ、ドラムの鮫島さんがタバコ買いに寄るって言ってんだけど、良かったら会ってかない?」 「鮫島…その人っていくつ?」 「え〜っと…確かぁ…22くらいだったかな」 「何で知り合いなの?」 「ライブハウスで知り合った」 「ライブ…ハウス…」 「うちの卒業生だよ」 井波はソファーの隣にドカッと座り、俺の肩をギュッと抱き、ニッコリ笑って言った。 「今度、デートしましょうか」 俺は何を意識したのか、顔が赤くなるのを感じた。 「ちょっ離せよっ!距離感バカなんじゃないかっ!」 「フフ、如月ってさ、悪い連中といるくせに…何か違うよな」 ニヤニヤ笑う井波。バカにされたように感じた俺はソファーから立ち上がった。 「あれ?帰る?」 呑気でマイペースな井波に奥歯を噛み締めながら「帰るっ!」と言い放つと、音楽雑誌なんか読みながらヒラヒラ手だけ振ってきた。 細い階段を怒りに任せて降りる途中、小さな黒い丸レンズのサングラスをした男と出会した。 「うっわ!イケメン!」 俺はそんな褒め言葉に愛想を振り撒くはずもなく、ペコリと頭を下げてその場を後にした。
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