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広美という女性も夫が単身赴任で、義理の両親と暮らしている三十代のパートだった。
香子とは違い、義理の両親とあまりうまくいっていないらしく、相談を受けるうちに男と女の関係になったという。
「週に一度だけ夜勤があると言って、息抜きに俺の所に来ていた」
香子が黙っていると、仁は続けた。
「若い頃の君に似ていた」
「え?」
どういう意味だろうか。怒りが沸き上がってきた。
(昔の私に似ているから、浮気をした?)
とんだ言い草だ。
「理不尽なことを言ってるのはわかる。うまく説明できないんだが、見知らぬ土地に来て苦労している昔の君を見ているようで、つい同情してしまった。本気じゃなかった」
「そんな! 昔の私みたいだから、それで私を裏切ったってなに?」
結婚してからのこの二十五年はなんだったのか……?
「裏切った。そうだな。でも、昔の君を見るようで放っておけなかったんだ。彼女がつらいと泣く時、それを慰めることが昔の君への償いのように思ってしまった」
「そんな屁理屈は通らないわよ!」
香子は怒りに任せてそう大声を出しはっとする。
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