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2. 交通事故
朝、夫を病院へ運ぶ救急隊から、彼が通勤途中よそ見運転の車に跳ねられたと連絡があった。
「すぐこちらに来られますか?」という問いに、すぐ行きますと答えた。
姑が逝ったあと、一緒に暮らしていた舅は先月老人ホームに入所して身軽だった。
「夫の容態は? 死なないですよね?」
動転する香子に救急隊員は穏やかな声で、「大丈夫ですから、とにかく落ち着いて来てください」と答えた。
香子は電話を切ると、東京に暮らす社会人一年目の長男、彬と大学生の長女、楓に知らせた。二人ともすぐに向かうと言ってくれた。
昼頃、病院に到着すると既に子供達は着いていて、救命センター前の長い廊下のベンチで待っていた。
「まだ処置中で会えてないんだ」
彬が状況を説明してくれた。
漸く家族が中に呼ばれたのは、夕方近かった。全身を打撲していて、何か所も骨折しており、さらに頭を強打して意識がないという。
「危険な状態です。意識が戻れば回復の見込みはありますが」
沈痛な面持ちの担当医に、動転する香子に代わり彬がいろいろ聞いてくれた。
家族が待機できる場所はないということで、「何かあればすぐ連絡します」という医師の言葉を信じ、とりあえず子供達は駅前のホテルに泊まらせることにした。
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