3. 浮気

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3. 浮気

 広美という女性は何者だろう? 会社の部下? 水商売の女?  夫が生死の境を彷徨(さまよ)っているというのに、香子の頭の中は浮気のことでいっぱいだった。  先週末、夫とは電話したばかりだった。舅の施設での様子や、彬に彼女ができたらしいことをなんの屈託もなく会話した記憶がある。  それと確か、何か大切な話をしたような気がした……。何だったか?  暖房を入れてもさすがに夜は冷えた。しかし香子は夫のベッドで眠る気にはなれなかった。  ベッドは綺麗に整えられていた。それは二人で乱したベッドを浮気相手が整えたからだと思うと、(けが)らわしくて触れなかった。  香子は予備の毛布をクローゼットから見つけてきて、着てきた服のままそれを体に巻きつけるようにしてソファで休んだ。  十年前、夫に赴任の話が出た時、姑は闘病中だった。家を頼むと夫に言われ、岩手に残ることになった。しかし、その影で夫は香子を裏切っていたのだ……。  夫が今、生きるために闘っているのに、心に浮かぶのは恨み言だ。  でも、死なれては困る。死ぬ前に、一言恨み(つら)みを言ってやりたい。  怒りで眠れないと思っていたが、疲れでうとうとしてしまったようだった。  スマホに着信が入り、香子は目覚める。既に空は明るみ始めていた。
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