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「もしもし」
「こちら県立総合病院の救命センターです。高畑仁さんのご家族ですか? 」
女性看護師からだった。
「はい。妻です」
慌てて答える。
「病院へ至急おいでいただけますか?」
「ど、どうしたのでしょう? あの、主人は、主人は……」
「少し容態に変化があったので、念のためです。気を付けてお越しください」
動転させまいと詳しくは語らず、落ち着くようにと言って電話は切れた。
香子は急ぎ息子の携帯に電話する。すぐに彬が電話に出た。
「もしもし、母さん?」
「今、病院から電話があったの。すぐ来てほしいって」
「わかった。楓と一緒にタクシーで行くから、母さんも気を付けて」
「ええ」
香子は彬が調べておいてくれていたタクシー会社に電話してタクシーを頼むと、コートとバッグを手に取り外に出た。
(死なないで!)
香子はただひたすら、夫が生きることを願った。
二十五年の結婚生活がこんな風に、裏切られたまま終わるのではたまったものではない。
(生きて、元気になって、たくさん恨み言を言わないと、私の気が済まない)
香子は夫の無事を祈って、迎えに来たタクシーに乗った。
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