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4. 病棟
病院の正面玄関で香子はタクシーを降りた。
夜は明けきっていて、正面玄関は開いていた。中に入ると、昨日の救命センターに向かおうとする。救命センターは一階の一番奥にあった。
「高畑さん!」
後ろから呼び止められて、香子は振り向く。女性の看護師が立っていた。
「ご主人ですが、三階の救命センターの病棟に移りました。こちらのエレベーターで上がってください」
教えられて礼を言い、言われた通りにエレベーターに乗る。どういうことだろうかと香子は考える。もう手の施しようがなく病棟に移されたとか?
三階のエレベーターが開くと、目の前にナースステーションがあった。早朝と言うのに賑やかで、多分夜勤と日勤の交代の時間なのかもしれないと勝手に考える。
「あの、高畑仁はどの部屋でしょうか?」
カウンターの近くにいた看護師に尋ねると、「高畑さんは306号室です。この奥の部屋です」と廊下の奥を指さす。
礼を言って香子は病室へ急いだ。
306の前に立つと、名札を確かめる。二人部屋で『二見善吉』『高畑仁』と夫の名前が確かにあった。
香子はノックしてから中へ入る。
「あなた……!」
香子は思わず声を上げる。
窓際に車椅子に座った夫がいて、外を見ていた。
昨日の様子から、まだ寝たきりだと思っていたので香子は驚いた。
「大丈夫なの?」
「ああ、心配かけてすまなかった。意識が戻ったら、あとは足と肩の骨折だから、車椅子の許可が下りたんだ」
「でも……」
昨日の今日で、ベッドに寝てなくていいのだろうか? しかし、ナースステーションでも何も言われなかった。
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