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第1話 お前は駄目だ
「何度も言うが、無価値の商品に販売許可は出せない」
商工会のカウンターで頭ごなしに辛辣な言葉を投げつけられた俺。この言葉が何度目だったかさえもう憶えていない。
身寄りが無く、独りで生きていくにはお金を稼がなくてはいけない状況のど真ん中に俺はいる。辛うじて生産職のスキルを有している俺は、是が非でも商品を売って安定的にお金を獲る生活を送りたい。
だが、どの街で商品を売るにしても、その街の商工会の販売許可がなければ店を構えて販売することが出来ない決まりになっている。ここタールマイナの街も例外ではない。
「理由を聞かせてくれないか?」
俺は冷静を装いつつ質問したが、商工会の人間は迷惑そうな表情を滲ませながら言った。
「簡単さ。では聞くが、お前が作ったこの商品を誰に買わせたいと思っているのか答えてくれ」
目の前につき出されたのは、俺が商工会に持ち込んだ試作品の爆薬玉くん(仮)。見た目は小さいが、大きさとは反比例するかのように火力がある。市場に出回る爆薬玉のおよそ2.7倍。しかも使用者を選ばず誰でも使用できる点は他の商品とは違っているところだ!
ただ、欠点を挙げるとすれば、爆発時間にムラがありすぎるようで、いつ爆発するのか、使用者さえわからないという点が玉に瑕だ。
しかーしっ!
それがどうしたと言うのか?!
森の中で試しに使用したときに歴史的価値のある遺跡や建造物を吹き飛ばし、爆風で飛散した木々が隣街の中央広場まで到達していた事が以前に起こった。爆音まで発生したお陰で、神獣が目覚めたのだと勘違いした野生のモンスターが泡を吹いて倒れていたらしいが……
ほんの些細な事じゃないか!!
「誰に買わせたいだって? 勿論、誰でもさ。俺、ライザのモットーは『誰もが使用でき、安心して寝られる平穏な世界を』だ」。
俺の掲げたモットーは現実離れしているとは思わない。俺には生産職で活かせる強みを持っているからだ。それは『全年齢対象』スキルを有している点に他ならない。
生産された装備品は使用者が限定されてしまう点はこの世の常だった。剣士職しか扱えない武器が存在すれば、魔法職しか着用できないローブが販売されており、有りとあらゆる装備品には制限が備わっている。
装備だけではない。アイテムも同様である。職によって効果を発揮する回復薬さえ異なっている。赤い薬草は『魔法職専用』であり、青い薬草は『剣士職専用』である。使用者が間違って購入しないよう、外観の色やデザインは一目でわかる仕様になっている。
使用者の種類に制限が課せられる事は今までの当たり前であり、俺もそうであるとこれまで普通に思っていた。
しかし『全年齢対象』スキルを習得してからは俺の中で認識が一変した。このスキルはユニークスキルであり、生産職であれば誰でも習得出きるものではない。俺の知る限りでは誰も有していない未知のスキルである。
俺は習得して思ったのだ。
これまで使用できなかった物が世の中に溢れている世の中だった。しかし、誰もが制限無くどれでも好きなように使用できる世の中になれば、これまで職や性別、年齢や思想といった枠組みが足枷となっていた部分が解放されることで、平等な社会が構築できる、と。
だが、商工会の返答はいつも首を横に振るばかりで縦に振る素振りは微塵も感じなかった。
俺の作る商品には致命的な欠陥も存在する。それは爆発のタイムラグなんかよりも重要な問題。それは……
「平等で笑顔溢れる社会ねぇ……。火薬玉は10000歩譲ったとしても、攻撃力+1しか効果のない装備品を誰が着用する?」
そう。商工会のおっさんの指摘どおり、俺が装備品を手掛けると、何故かバフ効果が最低ランクにしかならないのだ。
生産職のスキルの1つ『低用量』どんな物のバフ効果も最小限、つまり+1にしか付与されないスキルである。
『低用量』もユニークスキルの1つであり、発動してしまえば一生消えない厄介なスキルとして存在し、生産職殺しとして恐れられている。『全年齢対象』と『低用量』という、天国と地獄を同時に味わうという状況に俺は陥っていた。安い言葉に乗った俺が馬鹿だったのかもしれない。
俺の能力を知った人間にこき使われて部品の生産等を作らされてきた。
「俺の元で働いてくれればいつか商工会に紹介してやるから」
そんな言葉を鵜呑みにしていた俺は他人の出世の為だけに利用されてしまい、ろくに生産の知識や技術を教わらないまま今日まで過ごしてしまった。
「それにお前の商品は売り物にならない最大の理由が存在しる。お前も判っているんだろ、ライザ?」
蔑んだ眼で俺を見下ろしている。無言のままでいると奴は嬉しそうに話しはじめた。
『お前は嘘つきアロンサードノイルドの息子だからだ』と。
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