3.ぼくの夏休み:その1

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3.ぼくの夏休み:その1

おじいちゃんとおばあちゃんとお母さんと、たぶんお姉ちゃんと北海道に行きました。北海道はとっても遠いです。どれくらい遠いかと言うと、朝の7時から小学生が起きてちゃいけないくらい遅くまで特急電車に乗って青森まで行って、青函連絡船という船に乗って朝早くに函館に着いて、やっと北海道だそうです。でも、そこから北海道の中心の札幌に着くのはお昼頃です。でも、戦争の時におじいちゃんとおばあちゃんとお母さんが疎開していた斜里の町まではまだまだだそうです。北海道はとっても広いです。 ぼくはこうや号を見たことがあるだけで特急に乗るのは初めてで、大阪駅のホームを端から端まで白鳥を見て歩きました。自分までえらくなったような気がするからです。肌色と赤のクレヨンで描いてみたくなりました。 頭のずっと上まである座席に着いてお母さんに聞きました。 「白鳥ってどんな鳥?」 「白くて大きな鳥。毎年ソ連まで行ったり来たりすんねん」 「でも、この電車白くないやん」 みんな笑っています。 「せやな。そのとおりや。あとで車掌に文句言うといたるわ」 おじいちゃんが言いました。ぼくは首を振りました。おじいちゃんはホントにやりかねない人だからです。 京都駅を過ぎるとおじいちゃんはワンカップ大関を開けて飲み始めました。おばあちゃんはバターピーナッツをおじいちゃんに差し出しながら、固焼きせんべいをお母さんと食べています。固焼きせんべいはものすごく硬くてぼくには食べれません。だのに入れ歯のおばあちゃんは好きなのです。ぼくはたまごボーロを食べました。口に入れるとさあっと甘く溶けるのが好きです。 「京都より遠くに行くなんて久しぶりやねぇ」 「せやね。東尋坊に行ったんはいつやったろか」 福井はおじいちゃんの故郷で何年か前にぼくらを連れて行ってくれたのです。おじいちゃんとおばあちゃんの子どもは5人、孫はええと、たくさんいるのですが、お母さんはお気に入りみたいでした。 ぼくは朝早かったので眠くなってうつらうつらしました。すると頬に冷たいものが押し当てられました。 「ふえっ!」 「冷凍ミカン食べる?」 お母さんがいたずらっ子のような目で見ています。敦賀駅で買ったそうです。 「この電車、窓開かへんねん。不便やな」 「全車冷暖房完備やからね」 「これからの特急はこうなるんちゃうか」 トンネルに入ったり出たりすると、大きな窓が大きな鏡のようになります。右を見ても、左を見ても鏡です。おじいちゃんもおばあちゃんもお母さんも楽しそうな姿で映っています。反対側の席の人たちもはっきり映っています。でも隣りのお姉ちゃんは見えません。半袖の腕の感触は伝わってるのに。
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