1.チュートリアル:駅にて

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1.チュートリアル:駅にて

長いインストールを待っているうちにうとうと眠ってしまった。遠くから踏切の音が聞こえ、蒸気機関車が近づいて来る。大きな汽笛で目が覚める。 いつの間にか出札口の前に立っている。チュートリアルが始まったようだ。画面の右上に「目的駅」メニューが表れて、プルダウンすると大宮、赤羽、上野と三つ選択肢があった。 「ゲームを進めると目的駅は増えていきます」という説明がかぶさる。上野を選ぶと窓口のガラスの向こうの駅員が硬券を取り、日付を打刻し、〇円ですと若い声で言う。 財布のアイコンをタッチすると聖徳太子、伊藤博文、岩倉具視が並ぶ。板垣退助はいないんだ。 待合室には五人ほど先客がいた。二人の子連れの母親、行商人らしき初老の男、暗い顔をした勤め人らしき中年男がいる。 母親にタッチする。「小山まで行きます」と答える。姉らしき子は「百貨店は楽しかったです」、弟らしき子は「またお子様ランチ食べたいな」と答える。みんなちゃんとした声優が声を当てているようだ。 行商人は風呂敷に包んだ大きな箱をなでながら「商売? まあまあだったね」と、勤め人はハイライトに火を点けながら「なかなかいい仕事はないですよ」とため息まじりに答える。 「ここまでの情報で今どこにいるかわかりますか?」と聞いて来る。今度はプルダウンではなく、自由に記入できるようだ。三つの選択肢から乗る列車は東北本線の上りだろう。小山以北のデパートでお子様ランチが食べれそうな駅は宇都宮、郡山、福島といったところだけど、子連れだから宇都宮と推測する。 行商人が商売をし、勤め人が仕事探しをする街ということからも、「宇都宮」と入力する。 「正解です」 チュートリアルだからサービス問題かな。 「ただ今から19時37分発上野行き普通列車の改札を始めます」 乗車時間が近づいてから改札を始めるというやり方はいつまでやっていたんだろう。スイカが登場して変わったんだろうか。 「ここで時期を解答するチャンスがあります。どうしますか?」 「んなもん、わかるか!」とツッコミながら、あてずっぽうに昭和〇年〇月〇日と自分の生年月日を入れる。西暦ではなく、昭和が98年まであるのがすごい。 入力してから紙幣の流通時期やハイライトの登場時期をググれば良かったと思った。 「不正解です。次の解答チャンスは車内です」と告げられる。昔の宇都宮駅はこんな感じだったんだと見回す。
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