ジョージ

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ジョージ

 玄関のドアをガチャリと開けると、辺りは美味しそうなシチューの匂いに包まれた。  私は鼻から大きく息を吸ってみる。  仕事で疲れた体に、野菜と良く煮込まれたビーフの芳醇な香りが染み渡っていくようだ。 「ジョージ、おかえりなさい」  マリアがリビングから顔を覗かせる。 「ただいま。今夜はシチューだね」 「そうよ、あなたの好きなビーフシチューよ」 「ああ、たまらない。腹が鳴りそうだ」  私は妻が作るビーフシチューが大好きなのだ。  そのままキッチンに向かおうとすると、マリアが私を押しとどめる。 「ダメよ。手を洗ってからじゃなきゃ」 「はいはい」  マリアと結婚して10年。何だかんだ言って私は妻に頭が上がらない。  これも胃袋を掴まれた者の宿命なのだろう。  私はグーグーと腹を鳴らしながら丁寧に手を洗う。 「ジョージ、今日も1日お疲れ様。明日は休みでしょう? ワインでも開ける? 安い物だけど買ってあるの」 「ああ、良いね。ちょうどアルコールを飲みたいと思っていたところだったんだ」 「じゃ、用意するわね」  妻に続いてキッチンに向かうと、私はキャビネットから二つのワイングラスを取り出した。  グラスはすでにピカピカに磨き上げられていて、室内の灯りをキラリと返している。 「おつまには……が良い……しら?」 「えっ、何て?」  彼女の言葉に私は眉をひそめる。 「ちょ……ど……が……て」  目の前の空気がジジっと揺れる。  ああ、まただ……。
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