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帰りの馬車の中で、私とマリーは料理長のニックが作ってくれた昼食を急いで食べていた。本当は馬車の中で食べるのはあまりよくないけれど、とにかくお腹が空いていたし、せっかく作ってくれた昼食を食べずに邸宅に帰ってしまうとニックが悲しむと思ったから。
やっぱりニックのご飯はおいしい。すぐに完食し、満足して外の景色をながめていると、私よりも先に食べ終わっていたマリーが言った。
「昼食もお忘れになるほど、お話が楽しかったのですね。あの方はどなたなのですか? 服装から貴族の方だろうとは思いましたが」
「ルイス・ウォーレン公爵令息よ」
「ウォ、ウォーレン公爵令息!?」
マリーは遠くで待機していたから声が聞こえなかったのか。マリーのことだから、私たちの会話を邪魔しないように昼食を促すのを控えてくれていたんだろうな。
「ごめんね、マリー。私が昼食を忘れていたから、マリーも食べずに待つことになったのよね。先に食べていてもよかったのに」
「いえ、そんな! 謝らないでください。お嬢さまが食べるよりも先に侍女である私が昼食をいただくわけにはいきません。そんなことよりも、私はお嬢さまがご友人と楽しくお話しになっているご様子がとても嬉しかったのです。その気持ちで胸がいっぱいになって、空腹なんて忘れておりました」
そう言って優しくほほえむマリーに、私は何か言おうとしたけれど結局言葉にならず、マリーに抱きついた。マリーは、驚きつつも抱きしめ返してくれた。
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