1 出会い

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 もちろん、私も今までに家族と3か月もの間離れて暮らしたことはなかったので寂しいという気持ちはあった。しかし、それ以上に自然に囲まれて過ごしたいという気持ちが強かった。  私があまりにもフェルノ領に行くことを熱望したために、家族で何度も話し合いを重ねて、3か月だけなら良いという結論に落ち着いた。    ただし、普通の貴族令嬢は、教育が始まる前のような幼い頃ならばともかく、教育を終えて立派な淑女となった後に自然の中で自由に遊ぶようなことはしない。庭園を優雅に散歩する程度だ。私がフェルノ領で遊んでいたことが知れ渡ると、おてんばだと噂されてしまうおそれがある。  そのため、お父さまは外で遊ぶときはフェルノ家の令嬢だと知られないようにするという条件を出した。  昨日までは邸宅の周りを探検しつつ遊んでいたのだが、もっと開けた場所でピクニックしてみたくなった私は、今日はフェルノ領と隣の領の境のあたりにあるマリーのおすすめの場所に連れて行ってもらうことになったのだ。 「行ってきます!」  期待に胸をふくらませた私は、朝食を済ませると料理長のニックが作ってくれた昼食を持って質素な馬車に乗り込んだ。 「マリーがおすすめしてくれたところなのだから、きっとそれはそれは素晴らしい景色の場所なのよ! 楽しみ! ニックはどんな昼食を用意してくれたのかな。ちゃんと変装しているからどんなに走り回っても地面に寝転んでもいいよね? ああ、楽しみ!」 「それほど期待されると、期待にお応えできるのか少し心配になりますが……。ええ、素晴らしい景色ですとも。自由に過ごせるのもこの3か月だけですからね。お嬢様のお好きなようにお過ごしください」  私は、馬車に揺られながらマリーに興奮気味に語った。変装のための庶民の服装も気分を高揚させる。私の母親に扮したマリーは、穏やかに相槌をうちながら聞いている。そうこうしているとあっという間に目的地に到着した。
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