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馬車から降りると、そこにはすばらしい景色が広がっていた。
春の爽やかな空。太陽にうっすらとかかりそうな白い雲。若々しい草と可愛らしく咲く色とりどりの花に覆われた地面。少し遠くには2本の木が立っていて、その根元でうさぎが飛び跳ねている。さらに少し遠くには森も見える。のどかな景色。
私はほうっと息をもらした。
草花の優しい香りに包まれながら、私はうさぎが見えた木の辺りに向けてのんびりと歩き出した。マリーは、私を邪魔しないように馬車のところから見守っている。
2本の木の下に着いてみると、うさぎは逃げてしまったのか周りを見渡しても見つからなかった。少し残念に思いながら木を見上げると、遠くから見てもよくわからなかったが、よく見ると淡いピンク色のつぼみをいくつもつけている。中には今にも咲きそうなほど膨らんでいるものもあった。
私はつぼみを見上げながら自然とほほえんでいた。
「咲くのが楽しみ。きっときれいな花だもの。早く咲かないかな」
「うん、そうだね」
心臓がドキリと跳ねた。マリーの穏やかな声ではない。高いけれど優しい響きの、聞いたことのない声。さっき景色を見渡したときは私とマリー以外に人なんていなかったはずなのに、どうしてマリー以外の人の声が聞こえたの?
驚きと緊張に破裂しそうなほどドキドキしている胸を手で抑えながらも慌てて声がした方を見ると、同じ年頃の男の子がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
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