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濃い青の髪に黄緑色の瞳。その顔立ちはとても整っている。服装は動きやすそうだが、質が良く繊細な柄の刺繍が入っていて貴族然としている。
「君、名前は?」
「あっ、えっ、えっと」
男の子の容姿と、先ほどの驚きによる心臓の激しい鼓動に気を取られていた私は、男の子の問いかけにすぐに反応できず、言葉につまった。
「ねえ、君の名前を教えて?」
私はソフィア・フェルノだと名乗りかけて、慌てて言葉を飲み込んだ。
(フェルノ家の令嬢だと知られてはいけないのだったわ! どうしよう、偽名を名乗った方がいいのよね。でも、偽名なんてそんなにすぐに考えられないし! それに、どんな偽名を名乗ったか忘れそうだし、呼びかけられても反応できなさそうだし、あああ、どうしよう!)
「聞こえないの?」
少しいらだったような男の子の声に、私は弾かれたように答えた。
「フィ、フィー! フィーよ」
ソフィアのフィから取った名前。これなら呼びかけられたときに自分のことだと認識できそうな気がする。
「そうか」
男の子が、ふっと笑った。その場の空気が緩んでほっとした私は、男の子に問い返した。
「あなたのお名前は?」
男の子は名を口にするのをためらうような様子を見せた。私には名前を聞いたのにも関わらず、自分が名前を聞かれることは想定していなかったかのように。黙って男の子を見つめて答えを待っていると、男の子は少し小さな声で答えた。
「ルイス・ウォーレン」
私ははっとした。ウォーレンといえばウォーレン公爵家。この場所はフェルノ領とウォーレン領の境。そしてウォーレン公爵家の一人息子の名前は、ルイスだ。
侯爵令嬢である私にとって、公爵家のルイスは元々目上の存在である上に、今の私は庶民の格好をしている。つまり、私が今とるべき行動は。
「こ、公爵家の方とは知らず、失礼いたしました。申し訳ありません」
慌てて頭を下げると、ルイスが悲しそうな小さな声で言った。
「ねえ、顔を上げて。お願い。今だけでいいから。今だけでいいから、僕を君の友だちみたいに扱ってよ」
悲しそうな声と予想もしていなかった言葉に驚いて顔を上げた。目の前には、泣きそうな顔をしたルイスがいた。
――どうして?
心の中で思っただけのつもりだったけれど、実は声に出していたのだろうか。あるいは、声には出していなかったけれど表情に疑問があらわれていたのだろうか。ルイスは理由を語り始めた。
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