ヘラと幸せの小瓶

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「化け猫さん、殺されてしまったのですか」  霊界某所。私は誰もいない薄暗い洞窟の中で、独り言を呟いた。 「ムジナくん。ヘラくんの精神が崩壊してしまったようですよ」  私はキラキラと光る水晶を見た。中には黒髪の死神が封印されていた。  彼こそがヘラくんが救出したいと願っているムジナ・ルクエトリーパー。彼の封印は私以外解除できないようになっている。 「ムジナくん。もしあなたが目覚めて、ヘラくんが壊れていたら嫌ですよね?」  ムジナくんからの返事はない。そりゃそうだ。彼の時間は止まっているに等しいのだから。 「これは私の失態……。お詫びに少しだけ戻してあげましょうか。……でもそれだけじゃあ面白くないですよね?」  私はヘラくんを映していた水晶を覗き込んだ。彼は真っ赤になった部屋の中心で化け猫さんを見つめている。 「……殺人衝動だけ消しましょうか。性格の暗さは、あの人と対面するときに発狂するかもしれないですから放置ですね」  私は水晶に魔法を放った。ヘラくんの見た目はそれほど変わらないが、確実に中身が変わっただろう。 「とりあえず試練は終わりです。お疲れ様でした。……たくさん眠って幸せな夢を見てください。幻ではなく、自ら望んだ幸せな夢を、ね」  水晶に手をかざし、眠らせる魔法を放つ。ヘラくんはその場に倒れ込み、安らかな寝息を立てて眠りについた。 おしまい
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