3人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は今、大都市エメスにある霊界のゲートの前に立っている。だが手を触れようとしても不可能だ。
──それはハレティの意思なのか?それともムジナの意思なのか?俺にはとても考えられない。
あの騒動が起きてから一年。俺は何も食べず、何も飲まず、何も語らず、何もしなかった。
つまり一歩もゲートの前から動いていないということだ。しかしそれには限界がある。なぜなら、この施設と霊界のゲートを完全に分離させ、塔にするらしいからだ。なので俺はどこかに追いやられることになる。
「ムジナ……」
俺はまさに『心ここに在らず』という状態で相棒の名を口に出した。俺はどうやら、塔のことよりムジナのことで頭がいっぱいのようだ。
あの日、俺が止めていれば。あの日、俺がしっかりしていれば。あの日、彼だけでも逃がしていれば、こんなことにならなかったのに。
そんなことを考えていると、俺の耳に男の声が入った。
「ここから出てください」、と。
俺は応戦しようと思ったが、魔力も無いし力も出ないしボロボロだったので、言われるがままに外に出されてしまった。
──俺たちはこんなにも簡単に引き離されてしまうのか。
俺は変わらない表情を恨んだ。本当は声を上げて泣きたいのに、呪いがそれを許さない。
本当に恨むべきなのはハレティではない、俺の弱さだ。
最初のコメントを投稿しよう!