ヘラと幸せの小瓶

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 俺は今、大都市エメスにある霊界のゲートの前に立っている。だが手を触れようとしても不可能だ。  ──それはハレティの意思なのか?それともムジナの意思なのか?俺にはとても考えられない。  あの騒動が起きてから一年。俺は何も食べず、何も飲まず、何も語らず、何もしなかった。  つまり一歩もゲートの前から動いていないということだ。しかしそれには限界がある。なぜなら、この施設と霊界のゲートを完全に分離させ、塔にするらしいからだ。なので俺はどこかに追いやられることになる。 「ムジナ……」  俺はまさに『心ここに在らず』という状態で相棒の名を口に出した。俺はどうやら、塔のことよりムジナのことで頭がいっぱいのようだ。  あの日、俺が止めていれば。あの日、俺がしっかりしていれば。あの日、彼だけでも逃がしていれば、こんなことにならなかったのに。  そんなことを考えていると、俺の耳に男の声が入った。 「ここから出てください」、と。  俺は応戦しようと思ったが、魔力も無いし力も出ないしボロボロだったので、言われるがままに外に出されてしまった。  ──俺たちはこんなにも簡単に引き離されてしまうのか。  俺は変わらない表情を恨んだ。本当は声を上げて泣きたいのに、呪いがそれを許さない。  本当に恨むべきなのはハレティではない、俺の弱さだ。
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