3人が本棚に入れています
本棚に追加
俺はイリスにある実家に戻り、自室に入ったあと、小瓶の蓋を開けてみた。
──フワ……。
甘い香りがする。目が虚ろになり、前を向くと目の前にはあの時と同じようにムジナが立っていた。彼の兄であるヘッジさんも、俺の姉であるメノイ姉ちゃんもいた。三人とも手招きしている。
「………………俺も、そっちに行きたいよ」
俺は『そっち』に向かおうとしたその時、手から滑り落ちた小瓶は真っ逆さまに落ちていった。
「あっ」
手を伸ばしたが遅く、瓶の口を塞ぐように床に落ちた。それと同時に甘い香りもムジナたちも消えた。
──やっぱり。
俺はこの小瓶を手にした時から薄々気づいていた。これは幻だと。
でもこれは俺自身が望んだ幻。インキュバスの俺に幻術をかけるなんて、なんて奴だと思ったが、油断していた俺も悪い。たとえどんな悪魔だとしても、幻術に逆らうことはほぼ不可能。逆らうことができるのは、何もかも棄てた者くらいだ。
求め続ける俺には到底不可能なことだった。
最初のコメントを投稿しよう!