ヘラと幸せの小瓶

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「ニャアン」  ドアを開けると、最初に見た光景と同じように、暗い部屋の中心に紫の猫と蓋が開いた小瓶があった。 「……壊してやる!」  俺は小瓶を割ろうと剣を振り上げ、躊躇いなく振り下ろした。  剣に伝わるグジュッと肉を斬る感触。 「……お前……」  ヨジャメーヌが斬ったのは小瓶ではなく、紫の猫だった。 「う、ぁ……うああああああっ!!」  血が勢いよく飛び散った。ビチャビチャと部屋中に飛び散る血を見て俺の頭はどんどん麻痺していった。部屋に拡がっていく鉄のにおい。  俺はとうとう現実と幻の区別がつかなくなっていた。 「や、だ……赤い……赤いのが……!」  俺は半狂乱になってしまい、手当たり次第に攻撃していた。剣を落としていたことにより、被害はだいぶ抑えられたが。  その間もハレティの呪いのせいで表情は変わらなかった。 「!」  ガシャン!!と音がした方を見ると、小瓶が割れ、ガラスが俺の靴を通して足の裏に刺さっていた。 「っ!」  俺は急いで靴と靴下を脱いで、足の裏を見た。深々と突き刺さったガラスは、ジワジワと血を流させながらチクリとした痛みを与えていた。 「あぁ……あ、あ……」  俺はガラスを引き抜いた。  いつの間にか甘い香りは消えている。しばらく待ったが、何も起こる気配がない。どうやらこれで試練は終わりのようだ。安堵の気持ちがあるが、マイナスの気持ちの方が俺を支配していた。 「……誰とも会わなかったらこんな気持ちにならずに済むのかな」  俺はその場に座り、猫を撫でる。コートが汚れたって構わない。元から赤いんだから。  俺は血まみれの掌を見て、呟く。 「ムジナ……ごめんよ。俺は何もできない、ろくでなしだったようだ」  猫を斬ったヨジャメーヌがキラリと光る。血にまみれた剣。俺はそれを手に取り、もう一度猫を斬った。  血しぶきをあげる猫。俺をもっと赤に染める猫。それを見て俺はえも言えぬ快感を得た。 「ハ……もっともっと……赤く染めてみたい」  満足するまで剣を振り下ろした俺の頭の中には、『ムジナを救いに行く』という思考は微塵も残っていなかった。
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