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 翌日、図書室に行ってはみたものの、当然だけど海は来なかった。  来ないだろうと覚悟はしていたけれど顔が見られない事が淋しい。  でも、これで良いんだ。  今までのように過ごして欲しいと言った俺の言葉を海はどう受け止めたのか、今まで通り空を避ける生活を続けた。図書室に来る事なく、あの場所に身を寄せる事もせず、授業が終わると帰宅して自室で過ごしているのだと空に教えられた。  俺の連絡先を海に伝えたと得意そうに笑う空は、それで海が連絡をしてくると本気で思っていたのだろうか?  そもそも、海はスマホを使う事が好きではない。小さな機械の中に刻み込まれた情報は、自分の多くを空に知られることに怯える海にとって恐怖でしかない。 空は海のスマホの中身を見たことなんて無いと言っていたけれど、そう疑われるような言動をしたのは確かだろう。だけど、スマホの中身は見ていないと言った空に嘘はなかったように思う。  きっとスマホの中身を見なくても海の動向が分かってしまう程に、ただただ海のことを見ていただけなのだろう。  それはそれで異常とも言えるのだけど、空曰く〈海を任せることのできる人〉を精査するためだから仕方のない事らしい。  俺のしようとしている事も異常だけど、それ以上に空は歪だ。  〈図書室で待ってる〉  〈何で来ないの?〉  〈先輩、もう来てるよ〉  〈何処にいるの?〉  〈早く来て〉  〈先輩も探してるのに〉  〈教室まで行くから待ってて〉  〈先輩も一緒だから〉  毎日なんとか海を呼び寄せようと俺の隣でメッセージを送り続ける空だけど、そのメッセージに既読が付いても返信は無い。  こちらはこちらで弥生に連絡をして海の様子を聞こうと思うものの〈海君からブロックされた〉と教えられて少し焦る。連絡が取りたい時は弥生経由でと約束したのに、これでは海の動向を知る事ができないではないかと苛つく。  弥生が言うには俺からのメッセージをリアルタイムで受け取りたく無いためブロックをしただけで、弥生のとの関係は今まで通りだという。 「ちゃんと伝えるから海君のこと、追い詰めないでください」  そんな風に言われてしまえば待つしかなくなってしまう。  それでも偶然でも良いから会いたいと登下校の時などは海の姿を探すけれど、その欠片を見つけることすらできない。それもそうだろう、空が事細かに俺と過ごす時間のことをメッセージで送るため、海は何時、何処に行けば俺たちと会ってしまうのかを熟知して避けていたのだ。  そうなってしまうとお手上げだ。  移動教室の時に偶然見る事ができたとしても一瞬だし、空は空で嘘をついてまで海を誘い出そうとはしない。弥生を頼ろうとしても「何がしたいのか理解できない」と言われてしまい、会うことに協力してくれる事はなさそうだ。  自分で1年待ってくれと言っておいて顔を見る事ができない事で焦燥感に駆られる。せめて一目だけでもと思っていても、避けられてしまってはそれも叶わない。学年ごとに使用する階が違うため、用もなく海の学年の階に行くわけにもいかない。  だから、海の気配だけでも感じたくてそうしてしまったのは仕方のない事。  図書館に海が来なくなったのは空のせいだから海の帰宅を待つ為に家に招待しろと言い募り、海の顔を見る機会を伺った。はじめはリビングで過ごしていたものの、なかなか帰って来ない海を待つには手持ち無沙汰で、気付けば空の部屋で海の帰宅を待つようになっていく。  空の部屋ならば空の蔵書を見て時間を潰したり、宿題をして過ごす事もできる。人様の家のリビングで寛ぐことは出来ないけれど、空の部屋ならば遠慮はいらない。  ただ、この時に海に会えなかったのは俺の気配を感じた海が帰宅を拒否していたらしいと知ったのは弥生からのメッセージだった。 〈海君を追い詰めないでください〉  弥生からのメッセージ。  前に口頭で告げられていた言葉を今度はメッセージで送ってくる。  そんな事はしていないとメッセージを返すと〈海君、家に帰りたくないって言ってます〉と遠回しに俺がいるせいだと言われてしまう。  そのメッセージを目にした時に感じたのは怒りだったのか嫉妬だったのか。  自分には何も言わないくせに、弥生に今の状況を相談しているのだと思うと自分の言葉が引き金になっていると分かっていても面白くない。 〈海が悪いんだからね〉  ノートの切れ端にそんな言葉を書き、ポケットに忍ばせた。俺と顔を合わせないように避けてばかりいる海の視線が、言葉が欲しくてやった事。  はじめは他愛もない会話だった。  初恋の相手の話になり、俺は同級生だったと言い、空は海だと答える。  今更ながら空の海に対する執着は根深い。  空に「初恋は叶わないものだ」と言うと「海は初恋じゃ無いのに叶わなかったと」笑われ、誰のせいだと腹を立てた俺は「海が手に入らないなら空が代わりになってよ」とその身を暴くことにした。  そのために持っていたわけでは無いけれど、ジャージから抜けてしまった紐がポケットに入れたままだったのを思い出し、それを使い空の腕を拘束する。抵抗するけれど、不意を突いて押さえ付けたため反応が遅れたのだろう。空も背は高いけれど、力はこちらの方が強い。 「代わりって、馬鹿なの?」  嘲るように言ってもその目の奥には焦りが見て取れる。 「そんなこと言って良いの?  今日、親って遅いんだよね。  海が帰ってくるの、このまま待ってても良いんだよ?」  そう、海を虐げる親と顔を合わせたくなくて適当な頃合いで帰宅していたけれど、それがなければ海を待つのも悪く無い。こんな事になっているのは海のせいだと直接言ったらどんな顔をするのだろう?  そんな海を想像しながら俺に拘束されて、それでもなんとかしようと軽口を叩く空のワイシャツのボタンに手をかける。 「洵先輩?  海よりオレのこと好きになっちゃった?」  解こうとしているのか、手首を動かしながら冗談めかした口調で言うけれどその目は怯えを含んでいる。 「そんなわけ無いだろ?  それとさ、名前呼ぶのやめてくれる?  俺の名前呼んでいいのは海だけだから。  まぁ、海みたいに小さくて可愛い方が好みだけど顔だけなら好みだし、せっかく海との距離を縮めてたのに邪魔したんだから…身代わり?」 「頭、おかしくなっちゃった?」 「別にいいんだよ。  このまま空のこと縛っておいて、帰ってきた海の事好きにしても。  お前のこの姿見せてこのまま空のこと襲うのと、海が身代わりになるの、どっちがいいか選ばせるのも面白いかもな」  空が怯える様子が面白くて、焦って短い言葉で抵抗する空に比べ俺は饒舌になる。そして、空の抵抗する気持ちを削ぐ決定的な言葉を告げる。 「でも、海には酷い事したく無いから空で我慢するよ」  俺の笑みはちゃんと冷たい笑みとなっているだろうか?  俺の言った〈我慢〉の意味は空にちゃんと伝わるだろうか?  海が今まで味わって来た辛酸を。  海がしたくも無いのにしてきた我慢を。  海が欲しかったものを奪い続けて来た空は、それに気づくのだろうか? 「別に抵抗してもいいんだよ?  なんなら海の初めて見学する?」  言いながら空の胸の飾りを探し、弄ぶ。  海の初めてなんてとっくに奪っているけれど、空は本当に気付いていないのだろうか?  あれ程までに海に対して執着を見せるのに、それなのに海の変化に気付いていなかったのだろうか?  俺に抱かれるようになって、あんなにも艶めいた海を見て何も気付かなかったのだろうか? 「空は淫乱なの?」  シャツのボタンを外し、アンダーシャツを捲り、それらが邪魔だと言って縛り上げた手首まで捲り上げ、今度は直接胸の飾りを指で捏ねる。 「期待してる?」  物理的にも精神的にも自由を奪い、指先で、言葉で弄ぶ。 「ほら、固くなってくる」 「こんなに小さくても気持ち良くなっちゃうの?」 「ほら、俺に触られて喜んでる」 「海は小さいから〈ここ〉も、もっと小さいのかな?」  言いながら少し強めに摘まむとその刺激で身動ぎする空には何も感じないけれど、海のそれを思い出し昂ってしまう。 「ほら、やっぱり淫乱だ」  刺激に負けて声が出そうになる空を嘲笑うかのようにそう言えば悔しそうな顔を見せるけれど、その目元は赤く色付き、その目は潤んで見える。 「もっと良くしてやるよ」  そう言いながら指で摘んで捏ね、固くなったそこに爪を立てる。  硬くなったそこを爪で引っ掻き、摘み、指の腹で優しく撫でる。  声を出す事を拒もうと口を押さえようとするけれど、それを許さず頭の上でその手を固定する。 「海が帰ってきたら声で何してるのかバレるだろうな」  声を抑えようと唇を噛んだ空を刺激するために再び胸の飾りを摘み、徐々に指を下に這わせる。  鎖骨をなぞり、脇腹を掠め、臍を渡りベルトを外す。スラックスのボタンを外し、ファスナーを下げ、腰を上げるように促す。 「制服、汚したくないだろ」  その言葉に従順に腰を浮かしたところでスラックスを抜き取ると腕を拘束され、下着と靴下だけの間抜けな姿を写真に撮る。 〈カシャリ〉という音に何をされたのか気がついた空が驚いた顔を見せ、「写真はルール違反じゃないの?」と動揺を押し殺して鷹揚にいうけれど、その目には怯えの色しかない。 「保険は必要だろ」  俺の言葉で空の目に浮かんだのは怯えだったのか、絶望だったのか、それとも期待だったのか。 「そんなに邪魔されたのが気に入らない?」  こんな状態でもまだ抵抗する気なのか空が言葉を重ねるけれど、本当は期待しているのかもしれない。下着越しに兆し始めた空の中心に気付き、そっと手のひらで撫でてみる。 「そうだね、やっと少しずつ心を開いてくれていたのに台無しにされたから」  手のひら越しにピクリと反応したそれの形をなぞるように指先で触れ、その指で先端を確かめる「濡れてる」と言葉に出せば自分の痴態を恥じて顔をますます赤く染める。相当遊んでいたと噂があったけれど、快楽に弱そうな身体は挿れる事はあっても挿れられる事は無かったのだろう。 「心配しなくても今日は最後までしないから」  言いながら下着を取り去り、今度は足首に下着を纏わせた姿を写真に残す。  よほど恥ずかしいのだろう。  顔を真っ赤にし、兆したそこをなんとか隠そうと身を捩れば後孔が露わになるためそちらも写真に残す。 「ここ、次までにちゃんと慣らして準備もしておいて」  写真に残した後孔にそっと指で触れ、空にそう告げる。 「なっ、⁈」 「それとも海とやる時のための練習台になってくれる?」  何を言われたのか理解できていても受け入れ難いのか、素直に返事を返さないため少し煽ってみる。  海の時は大切にしたかったから時間をかけたし、全て俺の手でと思ったけれど、空のためにそんな事をする気はさらさらない。だけど海の名前を出せば自分でやるしかないと諦めさせるために煽るような言葉を聞かせる。 「ふざけるな」  案の定怒りの表情を見せるけれど、自分の間抜けな姿を理解しているのだろうか? 「ふざけてなんかないし、許す気もない。  なんなら無理やり挿れても良いけど…痛いのは空だよ?」  脅すように海を思い出して兆したものを取り出し、指で触れていた後孔に押し当てる。腕を拘束され、足首に下着を引っ掛けたまま俺に尻を向け、押さえつけられ犯されそうになっているその姿に笑いが込み上げる。 「試してみる?」  洗ってもいないそこに挿れるつもりなんてないけれど、逃げようとする空が面白くて押さえつける腕に力を込める。 「やっておくから。  海のことは」  焦って告げられた言葉だった。 「最初から素直にそう言えば怖い思いしないのに」  素直な言葉にその先に何があるのかを理解させるため、腰を掴み更に押し当てる。 「心配しなくてもそんな簡単に入らないよ。今日はこっち」  そう言いながら自分のものと空のものを重ねる。背中に覆い被さるようにしたため顔が見えないのをいい事に思い浮かべる顔は海のもので、だけど海の慎ましいそこと違い空のそれに可愛さはなく、それでもその熱さに身体は素直に反応する。 「これ、気持ちいいだろ?」 「やっ、やめ」 「じゃあ海としようかな」 「やだっ、」  空も海と同じような性質なのか、嫌だという割には腰が動き始める。 「えっろ。  腰、動いてるしほら、聞こえるだろ?」  重ねたそれを大きな手で緩く握り、そのまま上下に動かしてわざと音を立てる。 「これ、空から出た音だよ。  空、やらしぃ。  ねぇ、空のは使った事ありそうだけど海ってどうなんだろうね」  屈辱を味わう顔が見たくて空を乱暴に仰向かせ、上から覆い被さる。 「知らないって」 「嘘ばっかり。  海のは空より小さいのかな、やっぱり」  言いながら海を思い出し、海の中を思い出し、それがさらに俺を昂らせる。 「そろそろだろ」  重ねられ、俺の手で弄ばれたせいで、もう限界なのだろう。手の動きを止め、「イケよ」そう囁けば熱を吐き出し、その腹を2人分の白濁で汚す。 「いい格好だな」  快楽に負けた身体を横たわらせた空を嘲笑い、その姿をまた写真に収める。  空の荒い息遣いにシャッター音が重なる。 「これ、海に見せるのも面白いかもな」  そう言って見せた写真は2人分の白濁で腹を汚し、扇情的にも見える紅潮した顔の空が写っている。縛られ、汚され、嗜虐心をそそられそうなはずなのに、それでもなお扇情的に見える。  海ならばこうは見えないのだろうと思いつつ、その写真を見てますます顔を赤くする空を嘲笑う。 「何?  自分の写真見て興奮してるの?」  くつろげた服を直し、汚れていないか確認する。シャツが多少皺になった気がするけれど、ブレザーを着てしまえば大丈夫だろう。 「次は最後までするから」と念を押し、「俺とやるか、海を差し出すかは選ばせてやるよ」そう言って自分の意思で抱かれる事を選択させる。  空が自ら海を差し出すような事はないため、最後までするのは決定事項だ。  ベッドに横たわったままの手を解き、それでもなお動こうとしない空を置いて帰宅準備をする。 〈海が悪いんだからね〉  空がまだ動かないのをいい事に海の部屋のドアに書いておいたメモを滑らせる。  これでまた俺のことを意識するはずだ。  これから俺のする事は海への愛情を示すためのこと。  写真ん撮るために、空に快楽と羞恥を与えるために空に触れ、空を弄び、白濁を浴びせたけれど、それは今日だけのこと。  深く身体を繋ぐ時には空には直接触れる事なく、空を愛する事なく、海を想って空を抱く事で〈選ばれなかった〉屈辱を味わえば少しは海の気持ちがわかるだろうか。  そうなった時に自分の今までして来たことが如何に残酷なことだったのか自覚して、海を解放してくれるだろうか。  そうなれば俺と海が2人で過ごす事になんの障害もなくなるはずだ。  1年経てば俺は卒業するけれど、海が卒業するまでにその居場所を作らなければならない。  第一志望の大学に入れば一人暮らしをするつもりだから海が自由に出入りできるよう合鍵を渡しておこう。  そのためにも空が今までして来たことを思い知らせ、反省させ、その上で海を解放させよう。  海、俺の最愛。  俺の唯一。  俺のこれからする事は海を裏切っているわけじゃないとちゃんと伝わるだろうか?  顔を合わせることができれば、視線を交わすことができれば俺からの気持ちは伝わるはずなのに、それが叶わないのならば何をしているのかを知らしめよう。  海を想い空を弄ぶ様を、海を想い空を翻弄する姿を、海を想い海だけを愛しながら空を支配する姿を隣の部屋で息を潜めて見守れば、海に対する俺の愛は必ず通じるだろう。  それを自覚した時の、海の喜ぶ姿はどれだけ可愛らしいのだろう。
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