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「……しまった。なんだかすごい恥ずかしいラジオネームにしてしまった気がする……でもまぁ、テキーラはご飯みたいなところだし。うんうん。」
今度、ご飯の上にテキーラかけて、お茶漬けみたいにして飲んでみよう、なんて。
この"DJ AGEHA"さんが一体何者なのかなんて知らないが、匿名でなんでも引き受けてくれるというのだ。
誰かに聞いてもらいたかった私は、とりあえず個人を特定されない程度に、詳細に悩みを書いて送った。
29歳、アラサーともいえるような年齢になった私には、付き合って5年の恋人がいる。
彼は美容師で、私が失恋したショックで閉店間際の美容院に駆け込んだ時に、髪を切ってくれた人だ。
あれから8年という月日を過ごした。
その過程で顔見知りから親友になり、お互いを恋慕のような感情で大切に想うようになり、家族のような気持ちになり……。
そして、いつのまにか、トキメキを忘れてしまった。
「倦怠期って、こういう感じなのねぇ。」
正直、彼以外とお付き合いしていた時は、倦怠期とは無縁だった。
相手のことが大好きで大好きでたまらない。この感情を忘れてしまうなんてあり得ない。
それほどに、燃え上がった恋愛をしていた。
もちろん、彼とのお付き合いも、数年前まではそうだったように思う。
だけど、長い付き合いになればなるほど、マンネリ化は避けられないのだ。
人間って、めんどくさい生き物。
自分のせいで、そう思うようになってしまった。
「……あなたが、今野真冬さんですか?」
「……!」
クライアントとの待ち合わせに指定したカフェにやってきたのは、いかにも案件内容とは関連付けられなさそうな、爽やかなサラリーマンだった。
「えぇ、そうです。弁護士の今野です。……あなたが、」
「……はい。今回連絡いたしました、杉谷奏多と申します。」
そう言った彼が差し出した名刺を見れば、役職にも就いているやり手の、超がつく大手の商社マンだった。
「へぇ……こんな華やかな経歴な人が、一体。」
「味方になってもらいたくて、弁護を頼んでるんですけど。」
「あぁ、失礼しました。いや……こういった案件で私の元に来るのは、大概似たような人なので、意外に思ったんです。」
「……俺だって、好きで訴えられたわけじゃないんですよ。」
「そうですよね。杉谷さんが勝てるように、私も全力を尽くしますので。」
そう言うと杉谷さんは少し不安な表情を見せながらも、聴取に答えてくれた。
「ちなみに、起訴されたからって、会社にバレるなんてことは……」
「基本的にはバレるリスクはありませんので、ご安心ください。ただ、傍聴席に会社の関係者が偶然……なんてことはありますので、そうなってしまうともうどうしようもないですけど。」
「……はぁ。」
「経歴に傷がつくのが怖いですか?」
「当たり前じゃないですか。たかが一晩……」
そうは言うけれど、杉谷さんが被害者なわけではないし、訴えられても仕方ないことをしでかしている。たかが一晩ではあるけれど、輝かしい経歴を持つ彼にとって致命的だ。
「天罰が降ったと思った方がいいですね。今後、同じように訴えられたら、それこそ勝ち目が見えなくなりますので。あ、分かってると思いますけど、たかが一晩だと思ってまた同じことしないでくださいね。こちらに不利になりますよ。」
「……」
「でも、今回は私を弁護に選んでくださったじゃないですか。人間関係のトラブルには強いです。必ず勝ちに行きましょう。」
「……ありがとうございます。」
……さて。聴取も終わったところだし。
杉谷さんについても、もう少し調べ上げるとするか。
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