ラジオネーム「テキーラご飯」

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「こ、怖くて、ラジオ宣伝用のメールボックス、開けない……」 恋愛相談のお便りを募集し始めて、一週間が経った。 またお便りが来ていなかったらどうしようと思うと、怖くてメールボックスを開けない。 だがしかし、週に1回更新のラジオ番組だ。まぁ、そうやって勝手に縛っているのは私だし、悲しいが誰も多分待っていないけれど……。 もし、お便りが来ていたら、いつまで経っても自分の相談に乗ってくれないなんて、酷いじゃないか。 そう思って、メールボックスを開こうと思うけど……この3ヶ月、お便りを期待して待っても来ていないのを知っているので、どうも勇気が出ない。 「はぁ……とりあえず、出る準備しなきゃ。予約時間に間に合わなかったら、キャンセル料3000円もとられる。」 今日はサロンの定休日で、午後からエステに行く予定がある。自宅から少し離れた場所にあり施術が上手でとても気に入ってるけど、当日のキャンセルや15分以上の遅刻は、3000円のキャンセル料金がかかる。 今月、結婚式に呼ばれたり、それに伴って新しいドレスを買ったのもあって、カツカツなのだ。 その結婚式に参列するためにエステに行くとはいえ、3000円は正直キツい。 そう思って、余裕を持って間に合うように、家を出て、駅に向かったのに……。 《ただいま、隣の駅で運転見合わせになり、現在再開の目処は立っておりません。お客様には大変ご迷惑をおかけしますことを___》 う、嘘でしょ〜!? 運転再開の目処が立たないだなんて! しかも、違う路線で行くにも、ここからその路線駅まで徒歩40分!? ……どれだけ立地が悪いんだ、ここは。 「と、とりあえず、タクシー拾えば……!」 確か、この駅のロータリーにはいつも何台か並んでいる気がする。 そう思い、微かな記憶を辿ってタクシー乗り場へ向かうけど……。 「う、嘘、一台もない……」 しかも、すごい人の数……! これじゃあ、絶対間に合わない。 待っている人ですら、もう何分もタクシーを捕まえられていない様子。 「これじゃあ、もう電話して、キャンセル料を払うしかないのか……」 仕方ない。よく考えたら、キャンセル料よりも、タクシー代の方がきっと高いし。 せっかく余裕を持って家を出たけど……今日は大人しく、電話でキャンセルするか。 はぁ、ツイてないなぁ。 そう思いながら、タクシー乗り場で電話をかけようとすると。 「すみません。」 「……!」 「電車止まってるみたいなんで、ここから違う路線駅まで行きたいんですけど、一番近い駅はどこになるんですか?僕、土地勘なくて。」 うわ……すごいイケメンだ。 黒くてちょうどいい長さに整えられた髪の毛は、社会人らしくセットされている。 爽やかなワイシャツと、紺のネクタイは彼の大人な魅力を一層引き立たせ、さらにほどよくついた筋肉が、彼をたくましく思わせる。 なんといっても、透き通った白い肌に切れ長の目。100人いたら100人イケメンだと答えるほど、容姿端麗なサラリーマンだった。 「あ……えぇっと、ここからだと、この駅が一番近いですね。」 そう言いながら、スマホでマップを開き、彼に見せる。 「ここからだと歩いても40分はかかるので、タクシー捕まえるのが絶対いいですよ。」 「徒歩40分……それは、タクシー捕まえる方がいいですね。」 「はい。あの、私、急いでないので、よかったらお先に乗ってください。」 そう言って、順番列を優先させようとしたけど……。 「……あなたも、急いでますよね。すみません、さっきからずっと時計を見られてるので、時間を気にしてらっしゃるのかと思って。」 「……」 は、恥ずかしい。 良かれと思ってついた嘘が、バレバレだったなんて……! 「あの……お礼と言ってはなんですが、一緒に駅まで行きませんか?」 「……え?」 「ここに僕名義でタクシー呼んでるので、渋滞していなければあと5分で着きますよ。」 「……!」 ま、マジで……? イケメンだし、スタイルもいい上に、気遣いまでできるなんて……! 「……すみません。大した用事ではないんですけど、お言葉に甘えてもいいですか?」 「もちろん。困ってる時はお互いさまですよ。」 「ありがとうございます……!」 なんていい日なんだ……! 散々だと思ってたけど、人の温かみに触れられるって、素敵だなぁ。 ふふ、今度、誰かに自慢しよーっと。 「それでは出発します。」 「お願いします。」 「お、お願いします!」 駅までは長くても20分くらいで着くらしい。 うん……これなら、なんとか間に合いそう。 ……しかし、イケメンだなぁ。 営業マンなのかな。爽やかな香りが、清潔感を引き立たせている。 ちらり、と横を見ると、美しい横顔。 真剣な顔をして、タブレットを操作していた。 久しぶりに、芸能人も真っ青のイケメンを見たなぁ。私と同世代くらいかな?腕時計も高そうだし、社会人としての余裕も感じられる。 ……でも、こんなに素敵な人だもの。結婚してるんだろうな……と思い、左手を確認するけど、指輪は見当たらず。 ……まぁ、結婚指輪をしていない既婚者だっているものね。というか、今回きりだし、きっと! イケメンに優しくされたからって、気になっちゃうなんて!うぶじゃないんだから……! 「到着しました。」 「あ、カードでも大丈夫ですか?」 「大丈夫ですよ。」 そう言われると彼はカードを差し出し、暗証番号を入力する。 「いや、あの、さすがに……半分は出しますよ!」 「大丈夫ですよ、お気になさらないでください。」 「でも、これじゃあ……」 「経費で落ちるんで……というと格好つきませんけど。困ってる人を助けただけですから。」 「……ありがとうございます。」 「はい……では、僕はこれで。」 そう言って彼は私が向かう方面とは反対のホームへ向かう。 ……いい人だったなぁ。 私も、困ってる人がいたら、助けなきゃ! 散々な日だと思っていたけど、すごく心があたたかくなる日だった。 こんないい日だから、せっかくだし、今日メールボックスを見てみよう……なんて、思ったりした。
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