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ネットカフェを出てすぐ、私は身を隠したくなった。ギラついた看板の店が並ぶ歩道には、派手な髪型のスーツの男性達がたむろっている。その隣を若いカップルが手を繋いで通り過ぎていく。
三十代の主婦が、こんな時間にこんな場所を歩いている状況が後ろめたくて、早足で駅まで向かった。
どこかで誰かの叫ぶ声が聞こえ、歩きながら振り返ると、左足が勢いよく側溝にはまってしまった。恥ずかしさが勝り、すぐに足を抜いたものの、捻挫でもしたのか痛くて歩けない。
少しの間、その場に留まりスマホを確認する。夜風が勢いよく通り過ぎ、身震いした。
足を引きずるようにゆっくり歩いていると、遠くのほうで電車が通り過ぎる音がした。
嫌な予感がして最終ダイヤを検索し直すと、今行った電車が終電だった。
どうしよう。帰れない。
自分の愚かさに、何もかもが嫌になった。
辺りを見回すと、私と同じ年くらいの主婦っぽい女性は、一人もいない。
私は最低だ。母としても。妻としても。
立ち止まって、駐車場のフェンスに寄りかかりながらそうちゃんからのメッセージを確認する。
〝楽しんでますか?気にせずゆっくりしておいで〟
その文面の下に、ご飯を食べている子供達と、眠った子供達の写真が送られていた。
その下にもうひとつ、〝昨日はごめんね〟の文字。
泣きそうになった。ごめんねを言わなきゃいけないのは、私も同じなのに。
昨日のそうちゃんの傷付いた顔が、また溢れてくる。
帰らなきゃ。
思わず電話をかけていた。
『もしもし?』
そうちゃんはすぐに出てくれた。あんなに怒っていたのに、声を聞いた瞬間、涙が溢れた。
『そうちゃん』
『どうしたん?』
『帰ろうと思ってたんだけど……足挫いて……終電逃しちゃった』
『えぇ⁈大丈夫?今どこ?』
『天満』
『今から行くから、待っとき』
私は何度も頷いて『ごめんね』と言いながらそうちゃんを待った。
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