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「寝てていいよって言ったのに」
信号待ちで、そうちゃんを見つめる私の頭に、彼は手を置いて言った。あの頃と同じように温かくて力強い手だった。
「まだ起きときたい」
「じゃ、起きとき」
「あ、そういや翔がね、算数のテスト全部100点でさ、持久走1番だった。まおりちゃんはね、絵の代表に選ばれたよ」
そうちゃんはハンドルを持ちながら、パッと顔を輝かせ、目を細めた。
「翔は俺が小さい時から、遊びで掛け算教えてたからかな?あと、俺も昔持久走一番で、絵も上手かったからなぁ」
「……」
いやいや。なんでいい所は全部そうちゃんに似てるの?
私も美術得意だったし。まあ、いいけど。
「大きくなったなー。ちょっと前までママしか言えなかったのに」
「ほんとに」
首を後ろに向け、可愛らしく眠る子供達の顔を見た。車のラジオからは、ひと昔前のラブソングが流れている。
「りかちゃん、いつもありがとう」
「ううん。そうちゃんだって、毎日仕事ありがとう。私やっぱそうちゃんと結婚してよかった」
そうちゃんは昔、人間関係を築くことが苦手だった。それなのに、私達のために今日までずっと、休まずに働いてくれている。
忙しい日々に追われ、いつしかそれも当たり前になっていた。
窓の外がキラキラしている。
「よし、明日は久々家族で外食するか!」
「やった!お寿司かバイキングがいい」
子供達は寝ているし、夜景の見える場所を通ったり、少し遠回りをして帰った。
いつかの、夜みたいだった。
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