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怒涛のような朝、子供たちが家を出て洗濯を干し終わり、やっと自分の準備ができると椅子に座った。二十分後には家を出ないといけないため、パンを一口かじりながら机に鏡を立てる。化粧は十分で済ます。リキッドファンデーションを塗って、眉墨、アイライン、色付きリップ、最後にチークで終了。ビューラ、マスカラは時間がかかるので特別な日しかしない。
まだ化粧もとちゅうで、朝ごはんのパンも一口しか食べていないのに。
「おかーさん!」と、ニ階から私を呼ぶ声がする。うわ。と思いながら気が付かないふりをして化粧を続けていると、ドタバタと騒がしい音を立てて夫が下りてくる。
「俺のズボン知らない?」
「えー?知らないよー」
「昨日ソファーの上に置いてたのにないんだよな」
ソファーの上に置くなよ。と思いながらパンとコーヒーを口に含むと、周囲を荒らしながら「あー、もう時間ないのに!」と半分キレ気味にズボンを探している夫に苛立ちを感じはじめる。
周りを散らかされるのが嫌なので仕方なく訊く。
「クローゼットの中ちゃんと見た?」
「見たって」なぜかちょっと怒り気味。
はぁ、とため息をこぼして立ち上がり、ニ階のクローゼットを見にいくと、え?と思わず声を出してしまう。彼のズボンは、ズボン置きの一番上、目に付く所に普通にあった。
この人と私の目の構造は違うのだろうか。
真剣に思いながら「あったよー!」と階段を駆け下りていくと、髪をセットしながら「え?俺が見た時なかったのになんで?」
私が嘘を言ったみたいな反応をされた。
いや、私まだ化粧と朝ごはんの途中なのよ。あなたと同じ時間に家出るのよ。なんであなたはゆっくり髪セットしてはるの。
「普通にあったよ。クローゼットの中」
「え、マジか!ごめんごめん!」
再び私が椅子に座ってパンを持ったと同時に、「黒い靴下もなかったんだけど、知らんよね?」と聞かれ、苛立ちゲージがマックスレベルまで達した。
「あのさ!私、まだご飯も食べ終わってないんよ!だからいつも言ってるじゃん!前日から準備したらって」
「わ、わかったわかった。靴下はもういいから、頼むからそんな怒らないで」
何、その言い方。私が怒るのがおかしいみたいな。私の心が狭いみたいな!逃げるように仕事に行った彼にモヤモヤを抱きながら、私も家を出ようとした。
最後にキッチンをチェックしておいてよかった。冷蔵庫と食器棚が開けっぱなしだった。
今から仕事か。きっつ。
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