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パパが歯磨きをしている洗面所にママが入っていく。パパは何も言わずに洗面台の真ん中をママに譲った。二人は鏡に映るお互いを見ながら歯磨きをする。
「今日は」
「6時ごろ。飯いる。朝子は?」
「定時あがりだから夕飯作る」
「さんきゅ。土曜は俺作るな。朝子の眉、今日いい感じ」
「ありがと。新一、寝癖」
口をすすぐパパの髪に、ママは歯ブラシをくわえたままドライヤーをあてる。
「お、ありがとう」
すかさずパパのネクタイを真っ直ぐにするママ。
「じゃあ、行ってきます」
ママの頬にパパはいつものようにキスする。
「行ってらっしゃい」
ママはそんなパパの背中を叩いて応えた。
「奈緒子、行ってきます」
私の頭をパパはひと撫でして、玄関から出て行く。
いつもの朝。
私はついニヤけてしまう。
「奈緒子? どうしたの?」
ママは洗面所前にいる私を振り返ると、歯ブラシを渡してくれた。
「私、ママとパパみたいになりたい」
「え〜?」
手早く口紅を塗りながらママが意外そうに私を見た。
パパとママは交わす言葉は少ない。けれどお互いの理解と信頼から生まれる間があって、ズレたりしない。
「ママとパパはぴったりだから」
ママは私の言葉に照れたように笑った。
「そお? 変な奈緒子。ほら、早くランドセル背負って」
「はーい」
了
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