銀の砂漠へ

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銀の砂漠へ

 ちょうど同じ頃、地中海を横切ったF-35BライトニングIIはアルバラの目前まで迫っていた。  低空飛行で気流に注意しながらコントロールしていたせいで、さすがのゼツにも疲れが出始めた。 「ガラク、話がある。  そろそろ起きろ」  久しぶりに熟睡した彼女は、コックピットの後部座席で足を踏ん張って胴体だけ反らせた。 「母さん、夜になったのね。  低いところを飛んでいるのはなぜ」 「良い子は寝かしつける時間だが、悪い子にはこれから仕事が待っている」 「積もる話は後回しってわけね」 「さすが私の子だよ。  いきなり悪いけど、いざというときにはミサイルを発射してもらわなくちゃならない」  大きなため息をついたが、狭いコックピットでヘルメットを被っていてはろくに頭も動かせなかった。 「まず質問に答えるが、この戦闘機にはステルス性能がある。  低空飛行をするとレーダーに引っかからないからだ」 「へえ、高そうな飛行機よね」  遠くを見ながら吐いて捨てるように言った。  外の星空とオーバーラップして、高度や姿勢制御に関する数値と無数の目盛りが映っている。  目を開けただけで、ロマンチックのかけらもない現実に引き戻された。 「これからアルバラという国へ向かう。  父さんはアル・サドン基地の外人部隊に1年契約で雇われているんだ」  頭の中で数回反芻(はんすう)して叩き込んだ。  情報は時として生死にかかわる。  嫌でも目つきが鋭くなってしまうのだった。 「よし、これから説明するミッションをよく覚えておきな。  反政府軍のアル・サドンと敵対する、政府軍のパルミラ・サーペント基地へ潜入するために向かっている」 「つまり、父さんの敵方ね。  話には裏があるんでしょう」 「飲み込みが良くて助かるぜ。  外人部隊には元々目的がない。  やる気のないアルバラの正規軍も、反政府正規軍も、金で雇った傭兵に危険な任務を押し付けているのさ」 「何だか、ムカつくね」 「そうこなくっちゃな。  だから、手を組もうってわけさ。  外人部隊の連中は気位が高い。  話せばわかる連中だし、お互いに利害が一致するはずさ」  少し空を眺めていたが、ガラクは自分の身に降りかかる責任に思い至る。 「それって、戦況を大きく左右するミッションじゃない」 「そうだ。  戦闘機にロクに乗ってないゼツさんには少々キツい。  だから万全を期して行きたいんだ。  まずは脱走兵を装って近づく。  だからお前は少し手前で射出して下ろそうと思う」 「寒くて熱い砂漠は嫌」  きっぱりと言い切ったガラクの語気は強かった。 「はあ。  それなら一緒に両手を上げてお縄に付こうじゃないか」 「もう前科者だし、独房なんか怖くないよ」  言葉とは裏腹に、どれほどの危険が待っているかは分かっていた。  だが母と一緒にいる、と思うだけで何とかなると思えるのだった。
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