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山岳基地パルミラ
植物が育ちにくい過酷な乾燥地帯に、切り立った山が連なる。
風に晒され、長年削られてきた山々のシルエットは、人を寄せ付けない鋭いフォルムを描いている。
まさかこんな場所に滑走路を作ろうなどと、誰が考えたのだろうか。
若いクリストファー・キンバリーには、どうにも退屈な風景だった。
「よお、王子様。
試験飛行してもいいとさ」
ニヤリと笑いながら、クリスが声をかけた。
「ええっ、本当ですか」
アンニュイな表情を緩め、目を輝かせると幼さが顔を覗かせる。
成人したばかりの青年は、飛び上がって喜んだ。
「ははは、狭い基地に閉じ込められているから、気持ちは一緒だな。
俺も飛びたい。
一緒に行くか」
金髪を伸び放題にして飾り気のないクリスは、スラリとして佇まいに威厳を感じさせる。
軍服の襟元を開き、ヘルメットを振り回しながら基地を闊歩する。
若い頃にクフィルTC2と呼ばれる練習機で、アル・サドンのナセル指令と鎬を削ったアルバラ空軍の英雄である。
現在はパルミラ外人部隊を統べる司令官であり大佐だった。
ハンガーと呼ぶ格納庫からエプロンへ出された機体の傍らに電源車がある。
「クリス指令、クフィルは絶好調ですよ」
パドルを振りながら、誘導員のマーシャラーが声をかけた。
エンジンは快調に動いていた。
何機か並べられ、タラップが取り付けられる。
「ふん、どいつもこいつも生き生きしてやがるな」
ヘルメットを被り、搭乗したクリスは鼻を鳴らした。
キンバリーも座席に飛び込む。
「それじゃ、行きますか」
「キンバリーは、クフィルに初めて乗るのだったな。
中東と南アフリカを中心に配備された機体だ。
デルタ翼機は旋回性能を多少犠牲にして、安定性を重視した機体だ。
ドッグファイトでは瞬間的にマッハ2.6程度の速度を出せる。
まずは突っ込み重視でやってみろ」
「わかりました。
イーグルに似た操作性だそうですね。
あとは機体に聞きますよ」
「先に上がれ。
すぐに旋回して、模擬戦開始だ」
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