山岳基地パルミラ

1/1
前へ
/8ページ
次へ

山岳基地パルミラ

 植物が育ちにくい過酷な乾燥地帯に、切り立った山が連なる。  風に(さら)され、長年削られてきた山々のシルエットは、人を寄せ付けない鋭いフォルムを描いている。  まさかこんな場所に滑走路を作ろうなどと、誰が考えたのだろうか。  若いクリストファー・キンバリーには、どうにも退屈な風景だった。 「よお、王子様。  試験飛行してもいいとさ」  ニヤリと笑いながら、クリスが声をかけた。 「ええっ、本当ですか」  アンニュイな表情を緩め、目を輝かせると幼さが顔を覗かせる。  成人したばかりの青年は、飛び上がって喜んだ。 「ははは、狭い基地に閉じ込められているから、気持ちは一緒だな。  俺も飛びたい。  一緒に行くか」  金髪を伸び放題にして飾り気のないクリスは、スラリとして(たたず)まいに威厳を感じさせる。  軍服の襟元を開き、ヘルメットを振り回しながら基地を闊歩する。  若い頃にクフィルTC2と呼ばれる練習機で、アル・サドンのナセル指令と(しのぎ)を削ったアルバラ空軍の英雄である。  現在はパルミラ外人部隊を()べる司令官であり大佐だった。  ハンガーと呼ぶ格納庫からエプロンへ出された機体の傍らに電源車がある。 「クリス指令、クフィルは絶好調ですよ」  パドルを振りながら、誘導員のマーシャラーが声をかけた。  エンジンは快調に動いていた。  何機か並べられ、タラップが取り付けられる。 「ふん、どいつもこいつも生き生きしてやがるな」  ヘルメットを被り、搭乗したクリスは鼻を鳴らした。  キンバリーも座席に飛び込む。 「それじゃ、行きますか」 「キンバリーは、クフィルに初めて乗るのだったな。  中東と南アフリカを中心に配備された機体だ。  デルタ翼機は旋回性能を多少犠牲にして、安定性を重視した機体だ。  ドッグファイトでは瞬間的にマッハ2.6程度の速度を出せる。  まずは突っ込み重視でやってみろ」 「わかりました。  イーグルに似た操作性だそうですね。  あとは機体に聞きますよ」 「先に上がれ。  すぐに旋回して、模擬戦開始だ」  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加