アル・サドンの白い稲妻

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アル・サドンの白い稲妻

 空軍の兵士には、個室が与えられている。  生活リズムを自分で整え、日々身体と精神を鍛えながら疲労を残さない。  高度な自己管理が求められた。  特殊な通信機をかけたままにしていたラルフは、シャワーを使いベッドに横たわった。  基地を10周走ったため、身体は熱を帯びている。  天井のシミを眺めながら、仮眠を取ろうとしたが目が冴えて眠れない。  今夜はスクランブルがあるはずだ。  ガラクがアルバラに来る ───  時間をかけてゼツと話し合い、出した結論だった。  不意に、音声が入る。 「今夜は月夜だ。  一番星もよく見える。  山も綺麗だ」  跳ね起きたラルフは、ヘルメットをひったくると廊下を全速力で駆け抜けていった。  エプロンへ出しておいたホーネットに飛び乗り、ケロシンを流すとアフターバーナーを効かせながら飛び立っていった。  ゼツからのメッセージは、ガラクと共にパルミラへ向かう、というものだった。  最悪の事態も考えて戦闘も想定しなくてはならない。 「ナセル指令、ゼツが始めます。  一番ハードなシナリオです」  管制塔に上がっていたナセルはホーネットのバーナー炎を眺めていた。 「アル・サドンの白い稲妻よ、グッド・ラック」  着任してから奇跡のような活躍でエースの地位を不動のものにしたラルフは白い稲妻と呼ばれるようになった。  加速し続けるホーネットの軌跡は、星空に走る稲妻そのものだった。  ハーティから買ったF/A-18Lホーネットは、電子化が進んだため操縦桿を握る時間よりもコンピュータを操作する方が長くなった。  これも時代の流れである。  ゼツに買ったライトニングⅡよりも戦闘力をバランスよく強化した機体である。  小さな主翼は機動性を高め、最大速度はマッハ1.7程度である。  そして一度に18機を補足して攻撃可能になっていた。  もちろん、空戦に特化したトムキャットには劣るが、その代わり対地攻撃も高いレベルで対応できる。  ラルフはアルバラのあらゆる戦況を想定して選んだのだった。  予想進路から最短でゼツとガラクが乗ったライトニングⅡを目視で捉えることができた。
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