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万事休す
操縦桿を引くと垂直に機体を立ててクフィルの加速性能を確かめた。
ドッグファイトにおいて、オーバーパフォーマンスかもしれないが、出会い頭に先手を取れれば有利に戦える。
体中でGの感触を確かめ、キンバリーは歯を食いしばる。
内臓が締め付けられ、血液が上下に揺さぶられる。
「そろそろ良いか。
訓練用のレーザー交戦装置を作動しろ」
クリスの声を聞くと、コンピュータに手を伸ばした。
「一度すれ違ってから戦闘開始だ」
上を取ったキンバリーは高度計を睨みながらクリスの機体を捉えた。
「さすがだな。
クセのあるクフィルの特性を理解しているようだ」
その時である。
2人のレーダーに近づいてくる敵機が映る。
「むう、間が悪いな。
勝負はお預けだ」
反転したクリスは一直線に目標を目指す。
続いて追ってくる機影が塊になって映った。
「ちょっと、キンバリー。
私にも声をかけなさいよ」
若い女兵士ジェナーが、がなり立てる。
「司令官が演習弾積んで飛ぶなんて、冗談じゃないですよ」
「はあ、人使い荒い基地だね」
「ホワイトたちが出てきたらどうするんですか」
続くカムス、テイラー、ロドリゴは屈指の腕利きだ。
「お前たち、置いてけぼり食った子どもじゃあるまいし ───
だが、助かったぞ」
機影を目視できる距離になった。
あと2キロほどだろうか。
1秒ほどですれ違い、一度やり過ごした。
背中に悪寒が走る。
「何だ、あれは ───」
凄まじいオーラを纏ったホーネットの機影が網膜に焼き付いていた。
「キンバリー、手を出すな。
全機に告ぐ、上空待機だ」
この空域で、機影も捉えているはずだが、ピクリとも動かなかった。
「ロドリゴ、感じないか」
クフィルを急上昇させながら、カムスはつぶやいた。
「ああ、手に汗が滲んだぜ」
暗い声を絞り出す。
「真っ直ぐ飛んでやがるぜ。
クレイジーなのか」
「ビビってるんじゃないよ。
あんたたちが行かないなら私がやるよ」
ジェナーは苛立ちを露わにする。
「指令の命令だ。
それにお前が敵う相手じゃなさそうだ」
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