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後門の龍
「ガラク、いるか」
「父さん」
近距離無線を合わせると、ラルフの声が届いた。
久しぶりに聞く声は、肚の力を緩めた。
「周り中敵だらけになってしまったな。
済まなかった。
やはり無鉄砲なミッションだったか ───」
暗い声でゼツがつぶやいた。
「何言ってやがる。
隔離街ファリーゼの教えを忘れたか」
数秒の間があった。
もう山岳地帯が目前である。
遮蔽物はなくなり、ライトニングⅡの機影は丸見えになった。
「絶体絶命のピンチでこそ、一流が試されるんだよね」
意気込んでガラクが言う。
レーダーで、クフィルが反転してくるのがわかった。
「母さんは、少し疲れているようだ。
父さんが何とかするから心配するな」
操縦桿を目一杯倒しながら出力を上げる。
バーナー炎を派手に吹き、アルバラに突如現れたスズメバチに活が入った。
空が少し明るくなり始め、お互いの機影がハッキリと確認できる。
「男たるもの、一代の戦いに身を焦がすなら散り際も華々しくあって欲しいものよ ───」
透き通った空気が満ちた朝焼けに、緑のグラデーションがかかり始める。
たくさんの血を吸い込んできた砂漠に、色が戻り始めた。
「ラルフ・ノエル・オリベール、アルバラに散る」
ミサイルの発射ボタンに親指をかけた。
安全装置を外し、中央の照準に全神経を集中していく。
その時、
「待て待て待て」
まくし立てる高音の声がヘルメットに響いた。
「アル・サドン見参だ、この野郎」
「ちょっと品がないぞ、ホワイト」
アリーがため息交じりにたしなめた。
「私は、ファイズ・ハーン・アリ―大尉だ。
アルバラ共和国政府空軍パルミラ・サーペント基地総司令クリスティ・ドゥイ・ブロトンに告ぐ。
アル・サドンのナンバー1からナンバー3までを揃えた。
合同演習を申し入れる。
直ちに回答されたし」
アリーの堅い声が無線に響いた。
「とかよ、おい ───」
カムスのため息に、ジェナーが降りていく。
「もういいだろう。
私も暴れたくなったよ」
「ファイズ・ハーン・アリ―大尉、クリスティ・ドゥイ・ブロトン大佐だ。
我々外人部隊には、国境も理念も関係ない。
金で雇われた戦争屋であり、誇りを糧に戦う同志だ。
アル・サドン基地の噂はかねがね伝え聞いている。
上位3名がお揃いとあれば、願ってもない。
是非お手合わせ願おう。
全機、演習用レーザー交戦装置に切りかえろ」
ライトニングⅡの座席にもたれていたゼツは、大きく息を吐いた。
高度を上げ、空に目をやる。
太陽が顔を覗かせ始めた砂漠は、少しずつ熱を帯び始めていた。
「陽はまた昇る。
胸に誇りの火がある限り」
ガラクも太陽に目をやった。
空に上がった狼が、己の存在を確かめるように駆け巡る。
右手をコンピュータに伸ばして、演習用レーザーに切り替え操縦桿を握り直した。
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