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あざれる砂漠
産まれて初めて操縦桿をしっかりと握ったガラクは、軽く倒しながら身体の感触を確かめた。
最新鋭のF-35BライトニングⅡは、わずかな動きも逃さず挙動に反映していく。
半分コンピュータ制御にしているため、極端に乱れることはなく初心者でもある程度はサマになった。
「ガラク、お手柔らかに頼むよ。
コックピットはゲームみたいなものだが、本物の戦場だぞ」
「分かってるわ」
思いがけず戦闘機の操縦を体験できることになった。
中東の雰囲気に慣れていないガラクは、甘く見ていた。
演習とは言え、飢えた狼と化した者たちに近づくには不用意過ぎたのだ。
「おい、変なのが混ざってるぞ」
ふらつきながら近づいてくるライトニングⅡをキンバリーが捉えた。
レーザーを発射しながらすれ違う。
コックピットにけたたましく警報が響く。
接近による警報、着弾の警報、レーダーに捉えられた警報。後ろを取られた警報。
「おい、危ないから大人しくしてろ。
邪魔するなら撃墜する」
無線に冷たい声が入ってくる。
「彼の言う通りにしろ、ガラク。
戦闘機をまともに乗りこなすには、何百時間も必要なんだ。
父さんみたいに乗りこなすのは無理だ」
少々声を荒げてゼツがたしなめる。
広い青空を自由に飛び回る戦闘機が、遠く手の届かない世界にいるのだと悟った。
自動操縦に切り替え、高度を上げていく。
低空飛行を続けたせいで、燃料が残り少なくなっていた。
「よし、そろそろいいだろう。
引き上げるぞ。
アル・サドンの諸君にも、燃料を提供しよう。
残り少ない者は一緒に降りて来い」
警戒を解いたわけではないが、クリスの言葉にはアルバラの戦況が表れていた。
外人部隊は、正規軍から切り離されていて独自の作戦を展開する段階に来ていた。
つまり、いつ切り離されてもおかしくないし、金食い虫のお荷物になりつつあるのだ。
「ライトニングⅡはお言葉に甘えさせてもらえ。
我々はお気持ちだけ受け取っておく」
アリーが言った。
アル・サドンから来た3機は、大きく旋回した。
その後ホーネットが離脱してついてくる。
「俺もつき合う。
戦場では何が起こるかわからないからな」
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