再会、そして

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再会、そして

 山岳地帯は気流の乱れが激しくて、離着陸が難しくなる。  それ以前に平らな大地がないから滑走路を作るには適さない。  だが、戦闘機の扱いに慣れた者ならば、守りに適した天然の要塞になり得るのである。 「タッチダウンのポイントがシビアだから、コンピュータに任せるといい」  最新鋭のライトニングⅡは、ほぼ自動で離着陸できる。  練習のため、などと言っていられない難易度だから仕方がなかった。  ラルフの言う通り自動操縦で難なく着陸すると、ホーネットも続いてきた。 「ガラク」  コックピットから出るとすぐに親子は吸い寄せられるように再会を喜んだ。 「済まなかった。  父さんと母さんは間違えていた。  上辺(うわべ)だけの平穏を、お前に与えようとしていたのだ」  父親は、娘を抱きしめて悔やんだ。  立場上、敵方の兵士だから外で待機してラルフは給油だけ受けるつもりだった。  その間、ガラクと今までの経緯を話して今後のことを考えた。 「ガルーサ社の社員として、父さんと母さんは世界のバランスを保つために戦ってきたのだ。  これからはガラクも加わるということだな」  民間軍事会社は、軍事的な後方支援やコンサルティングで社会に貢献するという建て前がある。  これからは直接的な戦闘よりも比重が高くなるはずである。  限られた時間で、3人の親子は喋りつづけてから再会を誓ったのだった。 「ゼツ、わかっているな」  母は時々ベレッタに手をやり背後に殺気を送っていた。  ガラクも時折視線を感じていた。  目くばせだけをして、ラルフはホーネットに再び搭乗する。 「ゼツ、ガラク。  家族は人生最初の友であり、最後の支えだ。  無事に再会できると信じているぞ。  グッド・ラック」  戦場でよく使われる「グッド・ラック」は「幸運を祈る」という意味である。  戦友同志であれば、これほど心休まる言葉はない。  愛や情よりも深く、絶妙な距離感で相手を(いた)わる言葉である。  給油を終え、エプロンに収めたライトニングⅡを背に砂漠に向かって2人は歩いて行った。 「さてと、この辺でいいだろう」  銃声がしたと同時に身を伏せたゼツは、ベレッタを構えていた。  ガラクもベレッタを抜いた。 「何者だ」  浅黒く、豊かな(ひげ)を蓄えた大柄な男が物陰から出てきた。  赤黒い液体が流れる手を押さえながら。 「その手では、もう銃を扱えないだろう。  手当を受けたら去れ。  もう一度私たちの前に現れたら、今度は左胸に穴をあけてやる。  正規軍がよこしたスパイ狩りってところか」  男は呻くのみで答えなかった。 「さてと、ガラク。  ここからが正念場だぞ」  目くばせをすると、クリスが待つ管制塔へと向かった。  砂漠の砂を、山間(やまあい)の風が巻き上げ滑走路に積み上げていく。  耳を突く風の音に混ざって、時々石を打ち付ける音が混ざる。  生き物が育たない乾ききった風景は、この世界の生きにくさを象徴するかのようだった。 了 この物語はフィクションです
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