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確かあれは、小学校の低学年の頃だったと思う。 祖母が昔使っていたフィルムカメラを譲り受けて、私はそれをいつも見様見真似で使っていた。 写真の上手な撮り方なんて分からなかったけれど、自分が撮ったものを街の小さなカメラ屋さんで現像してもらい、それが写真として仕上がるのがとても嬉しかった。 そして、私の撮った写真を見て、誰かが煽てるようにこんなことを言ったのだ。 「光莉ちゃんは、写真を撮るのが好きなのね。将来は有名なカメラマンになっちゃうかもね」 その言葉に、カメラマンという職業がどんなものなのかを調べ、そして興味を抱くようになった。 お小遣いを貯めて、綺麗な空や風景が沢山載った写真集なんかも買って、それだけで夢に一歩近づけたような気がしていた。 子供の頃に抱いた夢なんて、そんな小さなきっかけが始まりだ。 けれども進路を考える時期になると、大抵の人はそこで現実と向き合って夢を諦める。 それは私も例外ではなくて、両親が公務員という堅実な職業に就いているからこそ、私だけがそんな不安定な職に就くべきではないと思い始めていた。 写真の勉強をしてみたいという夢を完全に捨てきれていたわけでもない。 それなのに私には両親にだけでなく、他の誰にもその夢を打ち明けることができなかった。 子供の頃の憧れを未だ夢見ているなんて、それは恥ずかしいことだと思っていたから。
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