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「……また何か無茶なこと言われた?」 「ええ……まあ、いつも通りって感じですね」 「私も何か手伝おうか?」 「いえ、大丈夫です。どのみち今日は残業になりそうでしたし」 この連休中に、三矢先輩がオーストラリアで働く友達に会いに行く予定でいることも、今夜の便で出発することも知っているので、流石に甘えるわけにはいかない。 早速、仲村さんから送られてきた宣材用の写真をパソコンに取り込むと、そこには息を呑むほどに美しい空の写真が映し出された。 確かに、これは差し替えたくなる気持ちも理解してしまうかも……。 手を加える必要などないような気もするが、事前の打ち合わせで確認しておいた希望に沿うように、空の青さのグラデーションをより活かせそうな気がした。 私は都内のデザイン事務所でレタッチャーとして働いている。 レタッチャーというのは、カメラマンが撮影した写真のデータを、画像加工ソフトを駆使してクライアントの要望に合わせて補正する仕事だ。 大学の写真学科に四年間在籍していたので、レタッチに関してはそれなりの技術や知識があったのが役に立ち現在に至る。 納期に追われ忙殺とした毎日を送っているけれど、自分が編集に携わったものが世の中に出回り、誰かの心を動かすこともある。 それが、この仕事に対する誇りを感じる瞬間だ。
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