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*** 電車を降りて、駅から近所のコンビニへと向かって歩いていると、エアコンのお陰で収まっていたはずの汗がまた滝のように噴き出してきた。 日が暮れても暑さが続くのは、まさにこの時期の風物詩とも言えるのかもしれない。 ハンカチを片手に5分ほど歩いて、ようやく辿り着いた目的地でもあるコンビニの店内へ入ると、私は迷うことなくお酒売り場へ一直線に足を進めた。 色々な種類が取り揃えているけれど、ご褒美というからには、ここはちょっと高価な黒ビールをチョイス。 お酒はめちゃくちゃ強いわけではないけれど、飲むと開放的な気持ちになるから、大きな仕事をやり終えた後などに、無性に飲みたくなることがある。 そして飲むと性格が変わるとも言われる。 慎重で自分の意見を主張するのが苦手な私が、周りを気にせず堂々と饒舌に語れるようになるのだ。 ビールを2本と、あとは適当におつまみと明日の朝ごはんをカゴに入れる。 私のように仕事帰りのサラリーマンが多いのか、珍しくレジが混雑していて、何も考えずにぼんやりと列に並んでいると、近くの棚に花火のセットが置かれているのが目についた。 花火なんて、どれくらいやっていないだろう……。 花火を見ると、私は高校三年生の夏休みを思い出す。 うちの地元は花火で有名で、毎年恒例の花火大会には大勢の観光客が押し寄せてきて、夏の一大イベントとなっている。 その日は街を挙げてのお祭り騒ぎで、私も地元を離れるまでは、家族や友達と毎年見に行っていた。
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