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「……これも一緒にお願いします」
自分の順番になり、すでに会計が始まっていたところに、私は一番小さな花火セットを追加した。
懐かしい記憶の背中を押されたと言えば、なんだか情緒的な感じもするけれど、平たく言ってしまえば単なる衝動買いだ。
買ったところで、花火をする時間もなければ相手もいないのに。
それでも買ったばかりの花火を宝物のように腕でしっかりと抱え、コンビニを出た私は、この暑さから1秒でも早く逃れようと家路を急いだ。
私の住むマンションは、ここから徒歩3分の距離にある。
ロックを解除してエントランスへと入ると、エレベーターホールには人の気配はなく静寂に包まれていた。
近所付き合いが苦手というわけではないけれど、小さな密室での二人きりという状況は気まずいので、できればこのまま誰とも会わずに部屋まで辿り着きたいところだ。
ボタンを押して、早くエレベーターが降りてこないかと待ち侘びていると、そんな私を邪魔するかのように、鞄の中から着信音が鳴り響く。
こんな時間に誰だろうと疑問を抱きながらもスマホを確認すると、画面に表示されている相手の名前に僅かな違和感を抱いた。
「えっ……咲……?」
彼女からLINEが来ることは度々あっても、電話をかけてくることは珍しい。
電話をすることがあっても、事前に都合のいい時間を聞いてくれるし、それに近々会う約束をしているのに、用事があるのならその時に言えばいいものだ。
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