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小さな頃からいつも側にいてくれている幼馴染の未来ちゃんを連れて、蓮が突然リビングに入って来た。
日曜日の昼下がり、テーブルで向かい合わせに座って寛いでいた私と律は一瞬顔を見合わせてから蓮に目を向けた。
"どうしたの?"
"結婚する"
蓮が手話でそう言った。
「「え⁈」」
蓮の横で未来ちゃんがはにかんだ。
"2人みたいな夫婦になる"
蓮の手が真っ直ぐな想いを私たちに伝えてくれた後、優しく未来ちゃんの肩を抱き寄せた。
律に良く似た、守るべき相手のいる凛とした男の表情をしている。
蓮が長く息を吐き、口元を緩める。
「あ」
「り」
蓮の口からゆっくりと声が聞こえてくる。
「が」
「とう」
言葉にできない胸の昂りが走馬灯を走らせる。
"友達ができない"
"声を笑われた"
"俺は不良品だ"
叩き付けられた補聴器をただ黙って見つめていた。
悔しくてたくさん泣いたよね…。
悲しくてたくさん泣いたよね…。
辛くてたくさん泣いたよね…。
ぶつかられたり、突き飛ばされたりして、体も心もたくさん傷付いたよね…。
毎日毎日心配で心が潰れそうだった。
代われるものなら代わってあげたいと願った。
いつの間にか強くなって、泣かなくなって、中学生の時は反抗期で心を閉ざした時期もあった。
あの日から24年の時間を経て…
この上ない答えをありがとう。
産まれて初めて見る私たちの涙に戸惑いながら、蓮も堪えきれない涙を拭う。
未来ちゃんが蓮の手をしっかりと握ってくれていた。
私の頭に律が優しく手を置いた。
私は律の目を見て頷いた。
私たちは…これからも共に、蓮の幸せを祈り続けていく。
「未来ちゃん」
「は、はい」
「蓮を、よろしくお願いします」
「はいッ」
光に満ちた未来ちゃんの瞳が輝いていた。
END
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