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コーチが曲を流す──。私達は曲に合わせ、ステップを繋げる。
ハンドウェーブと一緒にカホロを繰り返す。
左側に体重を乗せ、右に一歩、二歩、三歩、四歩──。四歩。は踏み込まず、つま先でタップ。そして、左に向かって同じく四歩。また四歩目でタップ。
両手を肩に添え、しなやかに、ゆっくりと少し広げるように下ろしたら、ハンドウェーブ。
両手を斜め上に動かし、そこから下半身へと回すように移動させる。額の当たりで開いて少し閉じる。
両手を前に出し、抱き抱えるように肘に触れ、ハンドウェーブ。
この曲を課題曲に決めてから、何度も繰り返し練習してきた。私達のステップは綺麗に揃っている。美薔薇ちゃんと麗愛ちゃんも合格点だ。流石は経験者と言うべきか、私の心配は杞憂だったのかも知れない。
最後は両手を開き、上半身を斜め前に下げてお辞儀の形で曲が終わる。気付くと美薔薇ちゃんが私を見上げ、両拳を胸元に当て不安げな瞳を向けていた。自分のフラがどうだったか気になるのだろう。私は人差し指と親指で円を作り「二人とも良かったよ」と伝えた。ホッとしたのか美薔薇ちゃんは、緊張から解放されたような笑顔を見せたのだった。
「どうやら新人の二人も問題ないようですね。今の感じを忘れないよう、繰り返しレッスンしましょう。その前に五分休憩にします」
コーチがパンと手を叩き、束の間の休息が訪れた。
「いや~凄かったよ二人とも。私より上手いじゃん」
「えへへ~。ありがとうございます奈瑠美先輩」
か、可愛い!何と言う可愛い笑顔だ!?私にもこの可愛さの百分の一でもあればなぁ。
それと比較すると、麗愛ちゃんはクールな印象だ。この子は美薔薇ちゃんにしか笑ったりしないのだろうか?渾身のネタで笑わせてやるか。
「麗愛ちゃん麗愛ちゃん。私のネタ聞いて」
「ネタ?何ですか?」
「スポーツの秋、食欲の秋、読書の秋──八代亜紀」
「あっはははは!奈瑠美先輩おっかし~!」
笑ったのは美薔薇ちゃんだった。麗愛ちゃんは引いた顔をしている。
「先輩……今は春で、秋ではありませんが?」
「うん……ごめん、今のは忘れていいから」
マジレスされると心が痛むなぁ。と、凹んでる間に休憩は終わってしまった。
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