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番外短編 ピジョン・クエスト1
主のいない机で、携帯が鳴った。
私は聞きなれぬ着信音に戸惑いつつ、同僚である朧川六文の机に近づき携帯を取った。
「はい、河原崎です」
「カワラザキ?あんたいったい誰だ。こいつは朧川刑事の携帯じゃないのか」
「ええと……どちら様でしたっけ?」
「ペパーランドカンパニーの福田だ」
私ははっとした。ペパーランドカンパニーと言えば、カロン――朧川刑事の友人であるやくざ、牛頭原が経営している会社だ。
「私は朧川の同僚です。カロンならちょっと出ていますが、何か伝言なら私が承ります」
「ちっ、参ったな。あんたじゃ用が……まあ、いいか。俺も兄貴に内緒で朧川さん専用の番号にかけてるしな」
「カロン専用の番号?」
「おっと、口が滑っちまった。やくざが刑事に専用の携帯を渡した、なんて知れたらよくないだろ?いくら朧川さんでも」
「ああ、牛頭原さんがカロンに携帯を渡したんですね。いいんじゃないですか?」
「あんた、なんか調子が狂うな。さすが朧川さんの同僚だけのことはあるな」
「で、どういった御用件です?」
「ん?……あ、ああ。実は俺が担当してる飲食店……まあスタジオ兼ライブバーなんだが、そこに立てこもりが出ちまってな。オーナーが商売ができないって泣きついてきたんだ」
「立てこもり?大変、警察にすぐ通報してください」
「通報してくださいって、あんた刑事だろう。……いや、そうじゃない。普通の立てこもりじゃないんだよ。だから朧川さんの番号にかけたんだ」
「普通じゃないって、どういうことです?」
「立てこもってるのは、その……幽霊らしいんだ」
「幽霊?」
私は携帯を顔から離すと、天井を見上げ沈黙した。……なるほど、これはカロンの領分だ。
※
私の名前は河原崎沙衣。
三途之署の『捜査一課付特務班』にひと月前、異動になった刑事だ。
私の所属する『特務班』は一言で言うと本部が解散し、捜査が終了した事件――いわゆるコールドケースを洗い直す部署だ。
未解決の事件を新たな証拠なしにどうやって再捜査するのかというと、ある特殊能力――「死者の声を聞く」という冗談のような手法――をもって行うのだ。
当然、そのような特殊な方法で捜査をするからには、専任の捜査官も常人にはない特殊能力の持ち主でなければならない。
私たちの場合は、これも言うのに多少の勇気を要するが――「死者が視える」能力だった。
詳しい説明は省くがとにかく私の同僚には「死神憑き」やら「コヨーテ憑き」やらがおり、特に先輩刑事である朧川六文巡査、通称「カロン」は対亡者捜査のベテランなのだった。
ちなみに私には何が憑いているかというと――まあ、それはおいおいわかるだろう。
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