夏樹

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大学の寮生活を始めてからも大型連休には顔を見せに帰った。 優しい笑顔で迎えてくれる2人の先生。 真琴先生としずか先生。 一変した生活に、心がついてくるはずもなく……手一杯な先生たちを翻弄した日々もあった。 でも、寂しさや悲しみ、苛立ちなどの負の感情はすべて吐き出させてくれた先生たちには本当に感謝しかない。 バイトしながら、大学に通えたのもしっかりと未来(さき)を見つめる時間をくれたから。 『いってらっしゃい』 2人で送り出してくれた旅立ちの日。 名残惜しさや寂しさ、いろんな感情がごちゃ混ぜになって大泣きしたっけ……。 「夏樹? 何を思い出してるの?」 「え?」 「すっごい幸せそうな顔してる」 「……そうだね。今すっごい幸せだから、かな」 「私の美味しいご飯を反芻してる?」 「うん。それもある」 「あとは何があるの?」 「実家の先生、思い出してた」 「ああ……。なるほど……」 ふわりと、咲桜が微笑む。 私の境遇を知っている彼女には先生の写真を見せたことがあった。 「生涯のパートナーの先生たちね」 「うん」 『人』としてのパートナーを見つけた先生たち。 世間では、日本ではまだ認められていないけど、夫婦みたいなもんだよね。 「ね……夏樹」 「うん?」 「私と、生涯一緒にいてくれる?」 一瞬呼吸が止まる。 虚をつかれた。 「急に……っ何を……?」 咲桜はじっと私の瞳を見つめる。 「私と、一緒に、生きていってくれる?」 「それは……」 返答に臆してしまった。 好きだと告白しあった間柄だから、別段変なこともない。 (ない、けども……) 是とも非とも、言葉が出てこない。
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