332人が本棚に入れています
本棚に追加
「サナ、やはり城に見えますわ」
「お城……に見えますねぇ」
侍女のサナと共に草むらからひょこっと顔を出したリーゼは、目の前に鎮座する城――のような建物をじっと観察した。
リーゼを含めたウォードル王族が住まう〝ウォードル王城〟よりはかなり小さいし、部屋の数も少ないように見えるし、庭園や城壁も見当たらない。だが外観の印象や構造はかなり似ているように思う。白い外壁も、バルコニーのデザインも、窓枠の形や装飾品も、同じ職人たちが建造したのではないかと思うほどそっくりだ。
「なるほど、これはラブホですね」
「らぶほ……?」
小さな城のようなものを草むらから観察していると、隣のサナがふむふむ、と鼻を鳴らして頷いた。
ウォードル王国の王太子妃〝リーゼ〟の専属侍女〝サナ〟は、異世界からやってきた流れ者だ。ウォードル王国は太古の昔より『時空の歪みに落とされた者が流れ着く場所』として有名な地で、サナだけではなく王城にも他数名、城下に出ればより多くの異世界人がこの国に流れ居ついている。他国の者に説明すると皆一様に驚いた顔をするし理解ができないと眉を顰められるが、ウォードル国民にとって『異世界人』はごくありふれた存在だった。
それどころか国の歴史や文化に別の世界の知識を融合しながら発展してきたわが国は、大陸内の他の国より科学技術や発明品が目覚ましい進化を遂げ、今や王族の暮らしも民の暮らしも豊かなものへ変わりつつある。ゆえにウォードル国民のほとんどが、異世界人に感謝しているのだ。
最初のコメントを投稿しよう!