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互いにそう信じ込んで、身体の距離を近づける。ヴィクトルの腕がリーゼの腰に絡みつく。リーゼの手もヴィクトルの背中に回る。たった今締めたばかりの背中のリボンの結び目をするっと引かれると同時に、二人そっと目を閉じる。
そのままあとほんの少しで唇が触れ合うという、その刹那――二人のすぐ傍にあった扉が、ドンドンッ! と勢いよく叩かれた。
『リーゼさま! ヴィクトル殿下! こちらにいらっしゃいますか?』
豪快な音に驚いて二人で一緒にビクッと飛び跳ねる。何事かと思って振り返ったリーゼだったが、直後に聞こえてきたのは他でもない、侍女のサナの声だった。
「サナ! います! ここにおりますわ!」
慌ててヴィクトルと距離を取り、扉に近づいてサナに返答する。すると扉の向こうから、想像もしていなかった事実を告げられた。
『申し訳ございません! 言い忘れておりましたが、ラブホは部屋の中でお金を払う仕組みです』
「……え?」
「は?」
『料金を支払わないとドアが開錠しないので、そちらで清算してください』
「な、なるほど……! ではこれは、利用料金を支払う装置なのね。わかったわ! サナ、ありがとう」
扉の向こうにいるサナに返事をしつつ、衝撃的な早とちりと勘違いをしていたことに明確に気がついてしまう。それはきっと、ヴィクトルも同じだった。
「……ということは、ここに書いてるのは『愛し合わなければ出られない』ではなく、『お金を払わなければ出られない』……?」
「そ、そのようですね……」
「……」
「……」
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