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リーゼとサナの背後――人の足で歩いてもお湯が沸くより早く到着できるほどの近距離に、ウォードル王国を統べる王家の象徴〝ウォードル王城〟がそびえ立っている。リーゼは王太子妃として、サナはその専属侍女としてあの大きな城に住んでいるのが『日常』なのに、この小さな城で『非日常』など味わえるだろうか――と素直な疑問を口にすると、サナにやれやれと肩を竦められてしまった。
「問題なのは、昨日までなかったラブホが突然、王城の隣に出現したことです」
「確かにこの規模の建物が急に建設されるなんて、不思議だわ」
真面目な顔で自分の顎を撫でたサナに、リーゼもそっと頷く。
そう、リーゼとサナが驚いているのは、突如王城の隣に出現したのが『愛を育む目的で利用される建物』だからじゃない。その『愛を育む目的の建物』が、『昨日までなにもなかった場所に突然降って湧いたように出現したこと』に驚いている。
いつものようにサナに付き添われて王城の庭園を散歩していた昨日のリーゼも、この目でちゃんと確認していた。そろそろウォードルにも雪が降る頃かしらね、と会話をしながら城下を見回したとき、間違いなくここにこんな建物は存在しなかったのだ。
「ということは、この建物も異世界から転……」
「リーゼ!」
「!」
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